【手帖】1冊しかない本屋

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 店に並ぶ本は、店主が選んだ1冊だけ。そんな“究極の本屋”が東京・新富町の森岡書店銀座店(東京都中央区銀座1の28の15、(電)03・3535・5020)。開店を聞いて「面白そう!」と思ったし、なかなか話題になっているらしい。遅ればせながら訪ねてみると-。

 店主は森岡督行(よしゆき)さん(41)。神田の古書店で働き、これまでは別の場所でギャラリーを併設した書店を経営。「1冊しか本を置かない店」は今年5月にオープンした。

 「独立して10年やってきて、次の10年って考えたとき『やってみようかなぁ』と思ったんですよ」

 本は1冊だけ。でも、ぽつん、とそれだけ売ってるわけではない。たとえば写真家なら同時に写真展を-といった具合に、1冊の本を中心にした展示空間をつくりあげて、作品や関連商品なども売る。

 取材日に売っていた本は、「ムーミン」で知られるトーベ・ヤンソンの小説『誠実な詐欺師』(ちくま文庫・740円+税)。造形作家の沢田英男さんがこの1冊を選び、本をモチーフに作品を制作した。机や壁に小ぶりの木彫作品が並んでいる。読んだことのない本だったけれど、「雪景色の小村、素朴な人々、シンプルな暮らし」。そんなイメージを思い浮かべた。

 本は毎週変わる。つまり週1回のペースで展示替え。企画を持ち込んでくる編集者や作家が多く、かなり先まで予定が決まっているそうだ。

 「商売が成り立たないと続けられない。本だけの売り上げを考えているわけではないんですが、予想以上に本が売れています」と笑う森岡さん。作家自身が在廊する日もあるし、作品について、関連図書について…1冊の本を中心に、話はいくらでも広がっていく。

 売られている本が幸せそうだ。一緒に買い求めた薄い木彫作品を栞(しおり)にして、ヤンソンをぼちぼち読みはじめた。(篠原知存)

産経新聞
2015年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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