【論壇時評】1月号 論説委員・井伊重之 中国の野心が揺らす海の平和

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 南シナ海の緊張が高まっている。中国がスプラトリー諸島(南沙諸島)で一方的に岩礁を埋め立てて建設した7つの人工島をめぐり、米軍がその12カイリ内に艦船を派遣する行動に出たからだ。米国は中国が領海だと主張する地域に自国のイージス駆逐艦を巡回させて中国を牽制(けんせい)するだけでなく、「航行の自由」を確保する姿勢を内外にアピールする狙いもあった。

 フィリピンやベトナムなども領有権を主張する海域で中国が人工島を建設するのは、戦略上の意味が極めて大きいからだ。人工島で工事が進む巨大滑走路を軍事転用すれば、中国機は南シナ海全域を給油なしで飛行できるようになるという。いわば制空権を手に入れる格好だ。

 その中国の主張はあまりに強引だ。建設した人工島を領土と一方的に宣言し、周辺12カイリは国際法上、認められている領海だとしている。しかし、本来は満潮時に沈む岩礁をいくら埋め立てても、領土とは認定されないのが国際的な決まりだ。

 さらに領海における外国軍艦の航行は、停止や監視活動などを行わない「無害航行」であれば認められる。これに対し、中国は1992年に国内法として制定した領海法で、外国の軍艦が中国領海内を航行する場合は中国政府の許可が必要だとしている。無理を重ねた独自のルールだ。

 もちろん米中とも軍事衝突に発展するような事態を望んでいるわけではない。偶発的な衝突を避けるべく細心の注意を払ってはいるが、海洋権益の拡大を露骨に図る中国の姿勢は、アジア地域の平和と安定を脅かしている。

 「ラディカル・ポリティクス-いま世界で何が起きているか」(中央公論)で、明治大特任教授の山内昌之と作家の佐藤優が世界情勢について対談している。この中で山内は、中国が南シナ海で進める人工島建設について「軍事的な安全保障とともにエネルギー戦略が絡んでいる」と指摘する。

 中国にとって南シナ海からインド洋は、中東への重要なシーレーン(海上輸送路)だ。中国は経済発展に伴いエネルギー消費が急増し、中東依存を強めている。領土に対する野心は、経済成長を支えるエネルギーの逼迫(ひっぱく)も色濃く影響しているという。

 中東依存という事情は日本も同じだ。佐藤は「リスキーな中東依存からの脱却には、原子力発電比率を戦略的な観点から定めておくことが最も有効だ」と強調する。そのうえで佐藤は「危機意識を持つなら、一時的に世論の反発を浴びても粘り強く説得しなければならない」としている。

 東海大教授の山田吉彦は「日本がアジアの海を守る」(Voice)の中で、「アジアにおける海洋安全を守るには、国連海洋法条約に従い、海洋管理や海洋安全保障などの新たな秩序を形成する必要がある」と強調している。

 日本はこれまでも国際法に従い、アジア海域の安全確保のために海賊対策などを通じて貢献してきた。それだけに山田は「今後は自由航行の確保や海洋環境の保全などに関しても主導的な役割を果たすべきだ」と主張する。

 ジャーナリストの櫻井よしこは「中華帝国主義からアジアを守るリーダーたれ」(正論)で、「南シナ海で起きていることは東シナ海でも必ず起きる。将来、尖閣諸島や東シナ海を奪われかねない危機に直面するだろう」と警鐘を鳴らしている。

 その現実的な脅威として挙げるのが、中国が進める東シナ海のガス田開発だ。中国は日中中間線の中国側海域で、新たに12基のプラットホームを建設している。それが軍事転用されれば、自衛隊や米軍に対する情報収集に使われる恐れがあるという。

 櫻井は「中国は一度建設したプラットホームを撤去しない。世界を正しい方向に導くため、日本は全力で働かないとならない。それが南シナ海沿岸国、ひいてはわが国のためになる」と訴える。=敬称略

産経新聞
2015年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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