芥川賞受賞『死んでいない者』作者が語る「大団円を迎えない物語」は何を残すのか?

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 第154回芥川賞を受賞した滝口悠生さんが2月14日、NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」に出演。芥川賞受賞作『死んでいない者』(文藝春秋)で辿りついた新境地について語った。

 『死んでいない者』は通夜に集まった人々の一夜を描いた小説。滝口さんは今作、滝口作品の魅力である、語り手がいつのまにか入れ替わる「移人称」と呼ばれる手法を使わなかった。そこにはどんな意図があったのかと問われ、これまでは語り手がどういう人なのか、何故語るのか、どういう仕組みで語られているのか、そこをきちっと詰めて書いていた、とこれまでの手法を振りかえった。しかし今回は途中から細かく決めなくても、語られていることが次の語りを呼んできた、その流れに任せることでこれまでとは違う動力がみつかったと話した。人称の事を考えず、語りの流れを信じて、任せて委ねてみたと、今作で取り組んだ新たなチャレンジが転機となったこと明かした。

 同作は通夜の席に30人が登場する群像劇。滝口さん自身も登場人物に「誰が誰だか全然わかんねえよ」と語らせているほどだ。それだけ多くの人々を登場させた意図を、人々の間に生じる齟齬や間違い、勘違い、はたまた偶然の一致など、通常ならば小説で描きにくい個人の思いが錯綜する様相を、小説のなかに定着させてみたかったと語った。そしてこの作品は最後に大団円を迎えるような群像劇でもない。登場人物すべてに何かはっきりとした着地点があるわけでもない。「これ」と名前をつけられるような単純なものが表れれば、簡単に理解し、そこで終わってしまう。ただその日に考えた事、思ったことが何だったのかはわからないが、そこで何かを感じ、その「何か」は忘れられない質感を持ち、記憶の中にとどまる、そんなある一日を描きたかったと同作に込めた思いを語った。

 NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」は毎週日曜6時40分ごろに放送。聞き手は野口博康さん。

Book Bang編集部
2016年2月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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