池上彰が読書についてたっぷりと語った「迷ったら買う」「アウトプット前提」「人生を変えた本」

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 ジャーナリストの池上彰さん(65)がBS11「宮崎美子のすずらん本屋堂」(3月18日放送回)に出演し、本の選び方や読み方など、読書術について語った。

■書店には毎日

 番組冒頭池上さんに対し「お招きするのが夢でした」と番組MCの宮崎美子さん(57)。池上さんから『舟を編む』三浦しおん[著](光文社)をヒット前にお勧めされていた宮崎さん。池上さんはどうやって面白い本をみつけられるのでしょうと問われ、本当に作り手がしっかりやっていると、装丁からなにからしっかりしたつくりの本だなと伝わってくる、と書店店頭で本を手に取ってみつけていると語った。池上さんは書店には毎日でかけるという。毎日回っていると新刊書のコーナーに何が追加されるかわかるため、選択の時間の節約になると書店巡りの極意を明かした。以前、買うかどうか迷っていた本が絶版になってしまうという経験をし、それ以来「迷ったら買う」と決めており、そのため仕事場である3LDKは全て本で埋まっていると明かされた。

■今読んでいる3冊

 鞄にはいつも数冊の本が入っている池上さん。現在持ち歩いて読んでいる本は『スーパーパワー Gゼロ時代のアメリカの選択』イアン・ブレマー[著](日本経済新聞出版社)、『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』ジリアン・テット[著](文藝春秋)、『宰領 隠蔽捜査5』今野敏[著](新潮社)の3冊。

ikegami1『スーパーパワー Gゼロ時代のアメリカの選択』イアン・ブレマー[著](日本経済新聞出版社)、『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』ジリアン・テット[著](文藝春秋)、『宰領 隠蔽捜査5』今野敏[著](新潮社)

『サイロ・エフェクト』について池上さんは「サイロとは日本語でいうと、“たこつぼ”のこと。しかしタイトルが“たこつぼ化の弊害”これだと売れないでしょうね」と笑った。池上さんはNHKの記者時代に先輩から汚職の構図を知るために、読んでおくとよいと言われたのが社会派ミステリーの松本清張。しかし『点と線』(新潮社)から入ってしまい、ミステリーの面白さにはまったという。そして今大好きなのが「隠蔽捜査」シリーズだと語り、『宰領 隠蔽捜査5』用に書店店頭に飾る宣伝文句を書いたPOPを披露した。

『国会議員誘拐 警視庁・神奈川県警対立 竜崎伸也に勝ち目はあるか?』(池上彰/すずらん本屋堂)

 実際隣の県の警察どうしは仲が悪いことが多く、池上さんが警視庁を回っているときも神奈川県警の悪口を聞いたと語った。警察同士が犯人逮捕より縄張り争いをする、そんな状況のなか、警視庁から神奈川県警に派遣された主人公竜崎はどう指揮をとるのか、という物語だと同書を解説した。

■アウトプット前提の情報収集術

 また池上さんの日ごろの情報収集術も公開された。新聞は毎日9紙(小学生新聞2紙含む)を読んでいるという。スマホでニュースを追っていると興味のある分野しか読まず、情報のサイロ化が起きる。新聞は興味関心のないものも目に飛び込んでくるため、知的好奇心や守備範囲が広がるという。また新聞によって論調が違い、全ての新聞に目を通しておいた方がよい、と語られた。朝は20分程度しか読まず、夜寝る前に気になった記事を「ビリビリと破いて」積み上げておくという。ニュースバリューや歴史的な意味は自分では判断できないため、時間に判断してもらう。そのために保存しておくのだ、と語った。そして難しいニュースを読んだときは「自分が他の人にどう説明するか」を考えながら読んだ方がよい、とアウトプット前提で情報を摂取することが大事だと示された。具体的には、頭の中に小さな子供の自分がもう一人いると考え、その少年に教えるように説明を考えるとよいという。

■人生を変えた本

 池上さんには本当に人生を変えた一冊があるという。その本は1962年に出版された『続 地方記者』朝日新聞社[編](朝日新聞社 出版社品切れ)。実話を基にした本で、地方記者の取材の様子やスクープ合戦などが描かれ、小学生の頃に同書を読んだ池上さんは地方で働く新聞記者になりたいと、将来の夢ができたと語った。また大学生のころショウペンハウエルの『読書について 他二篇』(岩波文庫)を読んで「読書とは他人の頭の中をなぞっているだけである」とあり「本を読んでいるだけではダメだ」と読書観が変わるほどの衝撃を受けたという。そして池上さんは亡くなる直前の父親が『広辞苑 第四版』新村出[編](岩波書店)を欲しがり、買ってきたところ寝たきりのまま読みはじめたというエピソードをあげた。「人間はいくつになっても知的好奇心を失うものではない。持ち続ける限り精神において老いることはない」と知的好奇心を持ち続けることの大事さを語った。

ikegami2『続 地方記者』朝日新聞社[編](朝日新聞社 出版社品切れ)、『読書について 他二篇』ショウペンハウエル(岩波文庫)

■理系エリートに文科系知識を教える理由

 池上さんは現在東京工業大学で理系の生徒たちに、社会科学や歴史など文科系の知識を教えている。理系のエリートたちは問題に対する答えを出すのは得意だが、社会に出ると必ずしも答えの出る問いばかりではない。彼らがサイロ化しないように、視野を広げるために教えていると語った。これから生きてゆくうえで大事なのは「答えをみつけることではなく、問いを探すことではないか。これから求められるのは良い質問ができる力だ」と論を展開した。

■世界の多様さを認め合う

 番組では池上さんの新刊『池上彰の世界の見方 15歳に語る現代世界の最前線』(小学館)も紹介された。池上さんが6つのテーマ(地図、お金、宗教、資源、文化、情報)で、世界を大胆に丸ごと解説。実際に中学生に授業をしてまとめた本だ。15歳の中学生にもわかるように書かれた同書は実は大人にこそ読んでほしいという。そして「世界は多様で、多様な世界をそのまま受け取り、違いを素直に受け入れ認め合う。そうすれば世界が味方になる」と同書に込めた思いを語った。

「宮崎美子のすずらん本屋堂」はBS11にて毎週金曜日よる10:00から放送中。

Book Bang編集部
2016年3月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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