「わかったよエンタメ書いてやるよ!」同業者から絶賛の“玄人受け”作家・長嶋有 ついに「恋愛小説」を手がける

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 作家の高橋源一郎さん(65)が司会を務めるNHKラジオ第1放送の番組「すっぴん!」に4月22日芥川賞作家の長嶋有さん(43)が出演した。熊本での大震災を受け、長嶋さんが東日本大震災後に上梓した『問いのない答え』(文藝春秋)についてたっぷりと語られた貴重なインタビューが放送された。

■震災直後の「遊び」

『問いのない答え』は長嶋さんが東日本大震災の直後にTwitter上で始めた遊び「それはなんでしょう」が基となった小説。それは一部だけが明らかにされた質問に、出題の全容がわからぬまま無理やり答えるという遊びだ。回答が寄せられた後、出題者が問題の全文を公開し、その答えをつきあわせると思いもよらないおかしみをもった“にぎやかななにか”が立ち上がる。

■不完全な問いに無理矢理答える

 番組では長嶋さんが出題者となり実際にその遊びをやってみせた。長嶋さんの「どうしますか?」とだけの不完全な問いに高橋さんは直感を働かせ「とりあえず小説は書きません」と答えた。藤井彩子アナウンサー(46)は「私はいきます」との答え。その後長嶋さんがあらかじめ用意していた質問全文が明かされた。その質問は「宝くじで3億円当たったらどうしますか?」。高橋さんの答えはまさにぴったり。また藤井さんの答えも「行きますの意味が変わってくる」と長嶋さん。高橋さんは「とりあえず世界旅行に行くのか」長嶋さんは「人生にドライブをかけるんでしょうね」と解釈した。つじつまが合わないこともあるが、それを無理矢理解釈して遊ぶというのがこの遊びのキモだ。

■不安を和らげるために

 震災直後長嶋さんはぼんやりとした不安で小説に取り組むことが出来なかったと語る。長嶋さんの気分と同じように、Twitter上に流れる多くの人の言葉にも恐怖がにじんでいることが感じられたという。情報も錯綜しており、不安で怯えているが何もできない人達が大勢いて、そんな人達に気晴らしが必要だと長嶋さんは感じたという。そこで前述の「それはなんでしょう」という言葉遊びを始めた、ときっかけが語られた。

■「遊び」が小説に

 この遊びを夜通し行い、多い時は一つの問いに100人以上から答えが寄せられたという。尋常ではないテンションで答えが集まったので、長嶋さんは「きっと皆怖かったんだ」と感じたという。これが小説『問いのない答え』に繋がって行く。長嶋さんは実際にこの言葉遊びに参加した何人かに許可をとり、小説のモデルとさせてもらった。物語は遊びに参加した人の視点が次々に入れ替わり進んでゆく。

■実験的で野心的な一作

 長嶋さんはこの作品は実験的で野心的な作品だったと論を展開し、本文に仕掛けられた数々の実験を明かした。第一話の終了からページ遷移をせずに第二話が始まったり、同じ章のなかでも主語が入れ替わる、それを長嶋さんは「Twitterの仕組みのように主語が変わりながら言語が並んで行くことが面白く、小説でもそのようにしてもいいんじゃないか」と意欲的な試みを解説した。

■長嶋有の試みに驚き

 高橋さんは「本当に面白い。僕もTwitterをやっていた。震災の直後(Twitter上は)荒々しく、恐怖と不安でいっぱいになっていた。そんななか一番いいなと思ったのはデーブ・スペクターのダジャレ。すごく安らいだ。たぶん長嶋さんもそんなことをやろうとした」と長嶋さんの思いをくみ取った。そして震災後長く書けない作家、すぐに反応した作家、しばらくしてから書きだした作家、様々な立場の作家がいるが「長嶋さんがこういうかたちで小説にしたのはびっくりした。長嶋さんの作品は『社会』が入っている緩やかなコミュニティが描かれ『超立体的』だ」と同作を評価した。

■震災小説とは読まれたくない

 作中には秋葉原無差別殺傷事件の犯人を思いやる人物が登場するが、「ああいうことは書かない作家だったよね」と高橋さん。それまで日常を描いてきた作品が多かった長嶋さんは「9冊小説を出してきてやりきったと感じた。社会や政治のことがわかりません、で若者は通るが、だんだんわかりませんとも言ってられない」と作風の変化を語った。そして震災以外にも社会に起こる様々な出来事を重ねて描くことにより、「震災小説」として読まれたくなかったとも語る。長嶋さんは秋葉原無差別殺傷事件の犯人がやったことも「問いのない答え」だったと作中で述べている。高橋さんは「長嶋さんの緩やかに癒すためにやっていた遊びとは全く正反対の行為だが、そう考えるとこの小説は全然違ったものとして読めるようになる」と同作の別の見方を解説した。

■わかったよエンタメ書いてやるよ!

 今回の熊本の地震でも、当時長嶋さんと言葉遊びをしていた友人が何名か被災しているという。そこで当時のTwitterの仲間でお見舞いを贈ろうとしている、と『問いのない答え』が現実の世界ではまだ続いていると明かされた。また最新作『愛のようだ』(リトルモア)について「玄人受けはするけど作品が売れない。じゃあわかったよエンタメ書いてやるよ! 多様な読み方ができない一種類の読み方しかできない小説にしてやる!」と今作は「泣けるエンタメ」を書いたと明かした。高橋さんは長嶋さんのことを「上手すぎる。同業者として読むと、何かを隠している気がする」とプロが読んでも真意の見えにくい作家だと評した。

 番組ではその他にも高橋さんが震災後の第一作『恋する原発』(講談社)を書いた意義や、長嶋さんがバンド活動をしておりその中でポエトリーリーディングをしていること、作家生活35年に及ぶ高橋さんに「ネタがなくならないのか」と15年目を迎えた長嶋さんが迫るなど、作家同士ならではの赤裸々なやりとりが放送された。

 「すっぴん!」はNHKラジオ第1放送にて月曜から金曜8:05から日替わりのパーソナリティーで放送中。高橋源一郎さんは金曜日を担当している。

Book Bang編集部
2016年4月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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