平野啓一郎「天才はやさしい。中途半端な人ほど横柄」天才の条件について語る

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 お笑いコンビオードリーの若林正恭さん(37)が司会を務めるBSジャパンの番組「ご本、出しときますね?」(5月6日放送回)に小説家の平野啓一郎さん(40)と山崎ナオコーラさん(37)が出演した。小説家のスランプや才能について貴重な経験と考察が語られた。

■作家は40歳を超えてスランプになるのか?

 番組では毎回視聴者から寄せられる質問に作家陣と若林さんが赤裸々に答えるのが見もの。今回「スランプに陥ったことはありますか?」との質問に平野さんは「これまではないが、他の作家の40代以降の作品をみていると、40歳をすぎるとスランプがあるんじゃないかと思っている」との回答。そして最新刊『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)でスランプを想定し「40代問題を40歳になる前に考えておこうと思った」と40代の恋愛を描いた同作に込めた思いを語った。

■PCを前に涙した

 山崎さんは3年前に味わった辛いスランプを告白。「パソコンを前にすると涙がダラダラでてきた。書くことが辛いし、発表するのも出版するのも怖かった」と当時を振り返った。そして父親の死がきっかけとなり「それまでぐだぐだと考えていたことがくだらないと思えるようになった。いい作品じゃなくても、売れなくても、認められなくてもいい。とりあえず書きたいことだけ書こうと思った」と心境の変化を語った。

■分人主義とは

「私のルール」のコーナーでは作家がこだわっている独自のルールが披露される。そのなかで平野さんは「人が抱えている複数の『分人』を尊重する」と平野さんの考え方「分人主義」が披露された。分人主義とは人間が相手次第で様々な顔になることを肯定する考え方。他人に対し「『裏表がある』や『表面的に取り繕っているだけ』と言いがちだが、色々な面を尊重しないと」と持論を述べた。若林さんもそれに同意し、「分人という言葉が普通に使われる言葉になってほしい。深夜のラジオ番組とお昼の情報番組、別の分人でやっているので、深夜の話を昼の番組に持ち込まれても困る」と訴えた。

■天才とは何か?

 また山崎さんは『のだめカンタービレ』(講談社)の楽なのでワンピースしか着ないという天才の主人公に憧れて以来、ワンピースしか着なくなったと告白。そして天才とは何なのかについて話は及び、若林さんは「天才は幸せそうではない」と主張、それに対し平野さんは「そのひとの才能を世間が愛するっていうのもあると思う」と天才の条件をあげた。そして「天才は一種独特の人の良さがある。彼らは孤独だからそうしないと世間から孤立してしまう。本当にすごい人は親切。中途半端なひとは自分を天才にみせようと横柄」だと語り、若林さんを爆笑させた。

■森鴎外も辿りついた「諦念」

 そして山崎さんが一番好きな言葉だと語った「あきらめる」についての本を平野さんが紹介した。「諦念」という森鴎外の考え方を紹介し、鴎外文学の優しさを感じると「高瀬舟」(『山椒大夫・高瀬舟』[新潮社]に収録)を薦めた。ネットでは同番組について「毎回はずれがない」「貴重な話を無編集でみたい」「まさに平野さんが人あたりの良い天才だった」との声が上がっている。同番組の最新の放送回はBSジャパンのウェブサイト(http://www.bs-j.co.jp/gohon/index.html)でも無料配信されている。

 文筆系トークバラエティ「ご本、出しときますね?」はBSジャパンにて毎週金曜よる11時30分から放送中。

Book Bang編集部
2016年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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