「そもそも来客なんてある?」作家・町田康がリフォームで陥りがちな問題に解決策

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 5月15日NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」に『リフォームの爆発』(幻冬舎)の著者の町田康さん(54)が出演した。町田さん独特のユーモラスな語り口で笑いの絶えないインタビューとなった。

■文学的ビフォア・アフター

『リフォームの爆発』は著者の自宅リフォームをめぐって描かれる手記形式の小説。番組聞き手の高市佳明アナウンサー(43)は「論考のようでもあり、エッセイのようでもあり、告白本のようでもあり、小説のようにも読める。読者としてはどう読んだらよいのでしょう」と尋ねた。同書は実際に町田さんがリフォームを行った体験が基になっている。しかし小説ではリフォームに関わる人々の内面も描かれる。そこは町田さんの想像を基にして書いた小説的な要素なので、フィクションとしても体験記としても読める、と同作の楽しみ方を解説した。

■そもそも来客ある?

 同作の中で町田さんは「永久リフォーム論」とそれを打破する方法としての「夢幻理論」を提唱する。まずよくある例として、来客を迎えるために和室が欲しい、とリフォームを考える。しかし和室を作るとリビングが狭くなってしまう、さてどうする? と対応をせまられる、これが永久リフォーム論だ。しかしよくよく考えると、まず「来客ある?」と思い至り、そもそも「ないなあ」と気づくという。さらに細かく来客のことを考える。風呂に入るのか、パジャマはどうするのか、歯磨き粉はどうするのか、等々と考えてゆくとますます「いらんなあ」と、当初考えていた来客を迎えるための和室が、夢幻の中に消えてゆく。それが夢幻理論だ。現実を子細に分析してゆくと、そんなことないよね、となる。その思考の道筋を強引につけるのが夢幻理論だと自説を語った。

■小説家の役割とは

 そして小説家の役割は“ものさし”と“ものさしから外れた部分”の間を描くことだと論を展開した。「洋服でもMやLというサイズにジャストの身体というものはない。ぴったりこない、しっくりこない部分を書いてゆくのが小説」。「リフォームを描く場合でも実用本に書いていないような、実際こうだよね、と中間のモヤモヤした部分を描きたかった」と小説で描くべきものについて持論を述べた。

■「スーツを着た人」は面白くない

 そして町田さん特有のユーモアのある語り口に関し、心がけている事が語られた。人は文章を書こうとすると恰好よく、居ずまいを正して書こうとしてしまう。そうすると隙がなさ過ぎて人間が見えてこない。誰が書いても同じに見えてしまう。誰もがスーツを着ると居ずまいを正し「スーツを着た人」になってしまう。文章も同じで常にスーツを着たような文章では笑いも生まれてこない。町田さんはちょっと着崩したように書いているとファッションに例え文章論が語られた。

 また町田さんの文章といえば、古い言葉や若者言葉など普通は文学では使われてこなかった言葉が頻繁に使われる。町田さんはそれらの言葉を「拾ってきて、洗って、修理して使うと面白い文章になる。ある種言葉のリフォーム」だと解説した。

 NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」は毎週日曜6時40分ごろに放送。コーナーはNHKのウェブサイト(http://www4.nhk.or.jp/r-asa/340/)でも聞くことができる。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2016年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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