【手帖】絵本の元になった写真たち 写真展「赤羽末吉スケッチ写真 モンゴル・1943年」

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 『スーホの白い馬』(福音館書店)は、1960年代から読み継がれるロングセラー絵本。その元になった写真が見られると聞いて、東京都千代田区のJCIIフォトサロンで開催中の写真展「赤羽末吉スケッチ写真 モンゴル・1943年」(26日まで)を訪ねた。

 国際アンデルセン賞画家賞を受賞した絵本画家の赤羽末吉(1910~90年)が、戦時中に内蒙古(内モンゴル自治区)を訪ねて自ら撮影し、ひそかに持ち帰ったという写真のうち約90点が並んでいる。

 写真からは、遊牧民の少年が大切に育てた馬を王様に奪われる悲しい物語の雰囲気は感じられない。大草原に生きる人々を眺める視線はおおらかだ。ただ、風景や建物の様子、登場人物の衣装など、『スーホの白い馬』の挿絵とそっくりのものもあって、写真が制作に役立てられたことがよくわかる。

 展示解説や図録などを見ると、赤羽のユニークな職歴が目を引く。撮影時は、絵画の腕を見込まれて満州電信電話(満州電電)で広報の仕事をしていた。その後戦況はどんどん厳しくなっていくが、終戦までは関東軍のために、終戦後には中国共産党軍のためにポスターを描き、満州から引き揚げた後は連合国軍総司令部(GHQ)に就職して民主主義教育の展示物を作った。占領が終わってからはアメリカ大使館で展覧会などにかかわったという。混乱期を筆一本で生き抜いたのだ。

 そんな来歴を知って、『スーホの白い馬』はますます味わい深く感じられてきた。(篠原知存)

産経新聞
2016年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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