“暴走老人”にならないために、心理学で学ぶ「シニアの品格」とは|あの人の憧れの一冊 第3回

こんな本を読んできた

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「シニア」というのは不思議な言葉だ。英語のseniorは、年長者の意味のほかに「上級」という意味を持っていて、企業の中でもシニア・エグゼグティブ、シニア・マネージャー、シニア・コンサルタントなど、年齢に関係なく上級職の肩書きに普通に使われている。

 ところが日本で「シニア」というと途端に「高齢者」「老人」というニュアンスになり、人生の上級者であるはずの人たちの活躍の場を阻んでいるのではないか、という気がする。

 一方で、「昔は俺だって」「私もまだまだ負けない」といった意味のないプライドばかりが先に立ち、社会にそれが受け入れられないことで怒りにまみれ、迷惑な態度や行為に走る「暴走老人」が増えている現実もある。

 スーパーやコンビニで理屈の通らない文句をつけ厄介なクレーマーになってしまっている老人。電車の優先席前に立ち、座っている人に向かって自分が席を譲られる権利を怒鳴り続ける人。そこまでいかなくても、退職間際のサラリーマンが年下の上司の元で働くことになったりすると日常的に摩擦が起きたりする。

 今回の新刊『シニアの品格』では、そんなシチュエーションに立つ「暴走老人・予備軍」の59歳のビジネスマンがある人物との対話によって、人生の価値や残された時間について、また未来についてそれまでとまったく異なるアングルから考えることになり、生き方に大きな変化が訪れるまでを、このふたりの人物の対話形式にしてまとめた。

 それぞれの秘密、悲しみ、封印した過去などもその中に登場し、どんな人生を送ってきた人にも大きな共感を持ってもらえるはずだと思っている。

 このふたりの人物の対話のベースになっているのは、「強みの心理学」とも呼ばれるアメリカで誕生した「ポジティブ心理学」や、心理療法のひとつである「ゲシュタルト療法」の理論だ。といっても小難しい理屈ではなく、自分や周りの人の強み・弱みを知ってそれを受け入れ、また、自分が何に怒っているのか、何を求めているのかを、平易な会話の中から見つけていく作業である。

 私がそもそも「人生の意味」に興味を持つきっかけになったのが、本書にも登場するユダヤ人精神分析医ヴィクトール・フランクルの著書『意味による癒し』だ。フランクルは強制収容所で家族を失いながらひとり生還し、その体験から多くの名著を残している。この『意味による癒し』は、現代人が心を病む原因は人生の意味の喪失だ、という観点からのセラピー論である。地獄を生き抜きながら強靱な魂で多くの人の心を救った彼は、いまも私のヒーローだ。

 人生の意味、というと大げさかもしれないが、本来の「生きる意味」を見つけられないまま、あるいは気づかないまま、不思議な思い込みで生きている人が多いと感じる。社会への貢献、仕事の成果……人はそれぞれ「使命」と思い込んで生きているものがある。でもそれが本当にあなたが生きる意味なのか。そもそも人生に「使命」は必要なのか。

 本書のふたりの対話が最後に導く大きなドラマに驚くころ、読者の心にも必ず変化が起こるはずである。それが「シニアの品格」に少しでもつながっていたら、こんなに嬉しいことはない。

小屋一雄(こや・かずお)
日本企業勤務を経てアメリカに渡りMBA取得、米国企業のマネージャー職を歴任した後に帰国。現在は、強みを活かした人材育成、組織づくり、エグゼクティブ・コーチングなどを行うコンサルタント。

『シニアの品格』小屋一雄/著
人生の後半戦における「幸福」の正体とは
人気漫画家ヤマザキマリさんも、「二人の会話を追うだけで、自分の中に滞っていた不純物の気配が消えた。凄い!」と絶賛!

Book Bang編集部
2016年6月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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