【手帖】影絵の巨匠が21年の歳月をかけた大作刊行 『アッシジの聖フランシスコ』

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 92歳になる影絵作家、藤城清治さんの新作絵本『アッシジの聖フランシスコ』(女子パウロ会・4300円+税)が刊行された。

 まず、305×288ミリという大きさに驚かされる。だが本の扉を開き、中世の教会を彩るステンドグラスのような影絵の繊細な美しさは、これぐらいでなければ堪能できないと納得する。

 アッシジの聖フランシスコ(1182~1226年)は清貧を旨とするフランシスコ会の創設者として知られるカトリック修道士。イタリアはアッシジの裕福な家庭に生まれた彼は、騎士となって手柄を立てようと戦場へ向かう。ところがその途中、重い熱病にかかり、「うちに帰りなさい。そこで、おまえのなすべきことを知らせよう」という神の声を聞く…。

 女子パウロ会が藤城さんにこの仕事を依頼したのは21年前のことだった。「週刊読書人」に掲載されたインタビューによれば《彼の清貧の姿勢、全ての生きものが兄弟姉妹であるという考え方、自然を愛するという生き方は、発展はしているけれども混沌(こんとん)としている今の世の中の、日本だけではなく世界中の人に大切なことを教えてくれる気が》して引き受けたという。そして、世界中の何億という人々が納得できるような作品をめざして試行錯誤を重ね、ようやく26の場面で彼の生涯を描き切った作品が完成した。文章も藤城さん自身が手掛けた。

 本書のあとがきに藤城さんはこう記す。《21年をかけて完成したこの「アッシジの聖フランシスコ」は、ぼくの影絵の人生の集大成といっていいいかもしれない。ぼくも92歳になり、文字通り生命がけで全身全霊すべての力を注いで描いた作品だ》

 どのページも深い祈りと美しさにあふれ、キリスト教徒でなくとも、心が浄化されるような心地がするはずだ。

産経新聞
2016年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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