【手帖】シリア難民の現実伝える

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 いまだ激しい内戦が続くシリア。その名を報道で見聞きしない日はないといってもいいほどだ。しかし、身の安全を最優先に、心ならずも故郷を離れ、欧州ではなく隣国ヨルダンのザータリ難民キャンプなどへ逃れた「シリア難民」についてはどうか。存在を無視され、なかったことにされてはいないか?

 そんな思いを込めて刊行されたのが、フォトジャーナリスト、安田菜津紀さん(29)のルポタージュ『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』(新潮社・1600円+税)だ。

 「シリアで新たに発生するテロ事件ばかりを『ニュース』とするならば、ヨルダンにあるシリア人難民キャンプの実情が報道される機会などは減ってしまう。だから私は彼らの生の声を世界に伝え、少なくとも孤立しないようサポートしたい」

 平成25年からシリア難民の取材を続けてきた安田さんは、同書にたくさんの子供たちとその家族を登場させた。彼らはみな、戦闘行為に巻き込まれ、瀕死(ひんし)の重傷を負ったり、愛する家族を失ったりしている。

 両親がヨルダンへの入国を認められなかったため、戦車の砲撃で全身に大けがを負った9歳の女の子が異国の病院で独りきりの入院生活を余儀なくされているケースさえある-という厳しい現実には言葉を失う。

 日本人にとっては遠い世界の出来事だ-。そう捨て置く読者もいるかもしれない。しかし、安田さんは「〈もし自分の子供の身に起きたら…〉と、外へ外へと想像力を働かせるきっかけにもなるはずだ」と期待する。

 貧困や災害の取材をライフワークとし、アラビア語の勉強にも余念がない安田さんは、今秋にもヨルダンへ再渡航し取材した人々のその後もフォローするつもりだ。(高橋天地)

産経新聞
2016年7月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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