直木賞作家・荻原浩が明かす「その話ください!」受賞作誕生の経緯を語る

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 7月31日NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」に『海の見える理髪店』(集英社)で第155回直木賞を受賞した荻原浩さん(60)が出演した。

 荻原さんは埼玉県出身の小説家。これまで小説すばる新人賞や山本周五郎賞などに輝き、『明日の記憶』(光文社)や『愛しの座敷わらし』(朝日新聞出版)などが映画化されている人気作家だ。直木賞は5度目のノミネートで見事受賞を果たした。

 受賞作『海の見える理髪店』は6編の家族の物語を編んだ短編集。番組では荻原さん自身が各短編の由来や読みどころを解説した。

■その話ください!

 表題作「海の見える理髪店」は主人公・僕が散髪をされながら老店主の人生を聞く物語。作品のラストでは老店主がひたすら語り続けた理由が明らかになる。荻原さんは「ラストに持って行くために長々とその前を書いた」と語る。そしてこの作品は知り合いの編集者の理髪師だった祖父のエピソードが基になっていると明かす。お酒の席で聞いたその編集者の話を「その話ください」と頼みこんだというのだ。短編の内容と実際の体験はまったく別物であるが、「狭い街の理髪店の店主」という設定の部分を頂いたと解説した。

「成人式」は5年前に中学生の娘を失った夫婦が主人公。娘あてに届いた成人式の着物のカタログをきっかけに2人はとんでもない行動に出る。荻原さんは「実際にこういう立場の人たちからは『ふざけるな』と言われるのを覚悟で」と同作を書いた決意を語る。どこから来るの? と思うようなタイミングで届くカタログに腹を立てつつも、それを逆手に取り何かするならどうするだろう、と同作の生まれた経緯を解説した。そして同作は一種のスポーツ根性ものだと語り「僕のなかでロッキーのテーマを流しながら、無謀な戦いに挑む2人、それをフラッシュバックで見せるように書いていた」と執筆当時の心境を振り返った。

■笑って暮らそう

 六つの短編の登場人物たちはいずれも困難を抱えている。どの作品でも最後にはその人たちを“小さな光”が照らす。荻原さんは「自分の小説の中で書いた言葉なのに、自分で納得した言葉がある」と明かす。それは収録されている「遠くから来た手紙」のなかの一文「笑って暮らそう」という言葉。荻原さんは笑えるような状況ではない人々でも、希望を込めて「笑って暮らそう」と説く。「人生や毎日はきついことも多いが笑ってしまえばなんとかなる。読んでくれた人たちも『かもな』と思ってもらえたら嬉しい」と短編集を貫く考え方を語った。

 NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」は毎週日曜6時40分ごろに放送。コーナーはNHKのウェブサイト(http://www4.nhk.or.jp/r-asa/340/)でも聞くことができる。来週のゲストは『コンビニ人間』(文藝春秋)で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香さん(36)。

BookBang編集部

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