締め切り間近の小説家が閃いた名案とは!? 作家・高橋源一郎「この手があったか!」

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 作家の高橋源一郎(65)さんが司会を務める、NHKラジオ第一の「すっぴん!」(9月16日放送回)のコーナー「源ちゃんのゲンダイ国語」で作家と〆切の関係についての小文が集められた『〆切本』(左右社)がとりあげられた。

■〆切エンターテインメント

『〆切本』は90人の作家・漫画家たちが〆切について書いた小文が収録されている。エッセイや手紙、日記に書かれた〆切に関するエピソードが集められている。そのどれもが苦労話で高橋さんは「全部あるあるある」と共感する一冊だという。

■〆切を守らないレジェンド

 高橋さんは編集者から「高橋さんもひどいけど、手塚治虫さんや井上ひさしさんはひどかったよね」と言われると告白。手塚さんは〆切を守らない“レジェンド”と呼ばれていたというのだ。

 同書で手塚は「編集者仲間では僕の事を陰で“手塚おそ虫”(原稿が遅れる)“手塚うそ虫”(〆切通りに書きますと約束して守らない)とか呼んでる」と述べており、編集者たちの苦労をよくわかっていたようだ。手塚担当の編集者のなかには、アシスタントとしてベタ塗り・コマ枠書きなどをさせられていたものもいたと解説された。

■連載1回分の謝罪文

 また時代小説家の柴田錬三郎は雑誌の小説連載ページで「読者諸君、実はまことに申し訳ないことながら、ここまで第一章書き終わったところでわたくし作者の頭脳は完全に空っぽになってしまったのです」と読者に向かって言い訳をはじめたというのだ。

 ホテルに缶詰めにされていることを嘆き、「小説というものは締切日をむかえてストーリーがすらすらと浮かぶのはまず二、三割の確率であると考えて頂きたい」と開き直る。

 編集者があと1時間で原稿を取りに来るという段階でも筆が進まず「この生き地獄からどう這いだせるか目下見当もつかない。おそらく諸君にはそういう経験はありますまい。土壇場でついに死んだほうがましなような悲惨な気持ちで弁解しているのです」と読者に泣きつく。

 そしてぎりぎりで原稿を受け取った編集者がその場では原稿を読まずに、即座に印刷所へ走る習性を利用し、書きあげたフリをしてこの弁解の文章を置いておき、自分はホテルのロビーで「ゆったりとした態度でブルーマウンテンの味でも味わっていればいい。誠に申し訳ないが今はこの非常手段しかないのです」とこの企み自体についても明かしている。

 実際この文章は週刊誌に掲載されたというのだ。連載1回分に相当する言い訳の文章を高橋さんは「いい文章だよねえ」と絶賛しながら「この手があったのか」と笑う。パートナーの藤井彩子アナウンサー(47)も「人間追い詰められるとこんな素晴らしい文章が生まれるんだ」と本気で感心をあらわした。

「すっぴん!」はNHKラジオ第1放送にて月曜から金曜8:05から日替わりのパーソナリティーで放送中。高橋源一郎さんは金曜日を担当している。「源ちゃんのゲンダイ国語」のコーナーはNHKラジオ第一のウェブサイトのストリーミング放送(http://www.nhk.or.jp/suppin/streaming.html)でも聞くことができる。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2016年9月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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