eBayの共同創業者ピエール・オミアイダは、「十分な失敗をしているかどうかの検証が重要だ」という。先進的だった企業も、成長すると次第にリスクを避けるようになる。変化の激しい社会では、現状維持のために同じ行動を続ければ破綻に向かうしかない。
彼らのように、クリエイターは失敗を恐れない。むしろ必要とさえ考えている。確かに失敗は酷いことかもしれないが、本当の犠牲は思っているほど深刻ではないことを知っているからだ。
また、多くのクリエイターたちは受け入れられる失敗の確率を決めている。失敗がゼロということはあり得ず、それなりにリスクが存在することを確認するためだ。同時に、たとえ大失敗でも意義があると思っている。
「2人の起業家をくらべたとき、ほかの条件はすべて同じで、一方は失敗経験が豊富、他方は失敗経験がなければ、後者より前者に投資する」と語るのは、ベンチャーキャピタル「ベンチマーク」の共同経営者マット・コーラーである。シリコンバレーから世界を革新する数々の企業に投資してきた彼も、失敗からの学習によって人材の価値が上がると考えているのだ。
心理学者の実験──「固定思考」と「成長思考」
人は、失敗に直面したときなどの逆境を通じて成長する。このことは心理学者の研究によっても明らかになっているが、その人の思考の傾向によって違いが出るようだ。スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドウェックの研究を紹介しよう。
ドウェックによれば、自分の能力に関する考え方は、「固定思考」と「成長思考」の2種類に大別されるという。固定思考の人たちは、才能や性質は生まれながらのものであり、能力は変化しないと考える。一方、成長思考の人たちは、知力や能力は、努力次第で向上するものだと信じている。
固定思考と成長思考では、課題に直面したときの考え方が大きく違う。前者はこうだ。
「すぐにうまく対処できるだろうか?」
固定思考の人は点数や肩書などの指標を気にしすぎるため、評価が下がる失敗を恐れ、既存の能力を活かせる行動をしがちだ。一方で、成功思考の持ち主ならこう考える。
「やれやれ、何か学べるだろうか?」
彼らは失敗を成功のチャンスととらえ、スキルを高められる新たな挑戦を試みる。挑戦が潜在能力を引き出すと信じている。
この違いは、ドウェックが生徒400人に対して行った、クロスワードパズルを解かせ、その成績をほめた後にまた別の問題を解かせる、という実験からもわかる。ドウェックは2種類のほめ方と、2種類の別の問題を用意した。
一方のグループには、「すごい成績ね。きっと頭がいいのね」と生徒が持つ能力をほめる。他方に対しては、「本当にがんばったわね」と、その努力をたたえた。そして、その後に別のパズルを解かせる際に、「簡単な問題」と「さらに難しい問題」のいずれかを選ばせたのだ。
すると、能力をほめられたグループの大半は簡単な問題を選んだが、努力をたたえられ、努力の価値を教えられたグループの90%は、難しい問題にチャレンジしたのだった。
この実験は、人は能力より努力に重きを置いた場合、より困難なチャレンジができることを示している。そして、努力の大切さを信じていれば、たとえ失敗しても学習によって克服し立ち直ることができる。クリエイターは、このような成長思考を育んでいるのだ。
クリエイターは(中略)、過ちを好機と思って成長し、失敗への落とし穴だと思わない。自分が直面した挫折を自覚して耐え抜き、もっと賢くなれる、新たなことを学べる、弱点を克服できると思って立ち直るのである。(166-167ページより)
(以上、第4章「賢く失敗する」より)
強く願いさえすれば、誰でも世界を変えることができる。変革は、稀有な天才たちだけが起こすものではない。本書によって示された成功ためのコード(暗号)は、次の世代の起業家たちにとっても、非常に有用なスキルとなるだろう。
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