【手帖】言葉否定の言葉が面白い

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 第38回講談社ノンフィクション賞、第32回講談社エッセイ賞、第32回講談社科学出版賞の贈呈式が15日、東京都千代田区の如水会館で開かれた。

 エッセイ賞を受賞した美術家、横尾忠則さん(80)の著書『言葉を離れる』(青土社)は、10代の終わりまでほとんど読書をせず、読書があまり好きではなかったという読書遍歴や、三島由紀夫らとの交流をつづる異色のエッセー。受賞のあいさつでは「書いたものを用意してきたが、時間がないのでやめます」と来場者をけむに巻き、笑いを誘った。一方、「受賞の言葉のようなもの」と題した文書で「ぼくの場合は言葉や文字などの観念的なものよりも、肉体的、感覚的なものから受ける影響や刺激の方がずっと多く、言葉以上に信じることができた」とつづった。選考委員の岸本佐知子さんは「読書をテーマにした文章でありながら、のっけから読書に対して否定的。言葉についても同じ。言葉を重ねれば重ねるほど真実から遠ざかる、とも。けれど、それについて語る媒体は言葉で、しかもその言葉が面白い」と選評した。


 ノンフィクション賞の『つかこうへい正伝 1968-1982』(新潮社)は「蒲田行進曲」などのヒット作を手掛けた人気演出家の人間像を描いた評伝。著者で脚本家の長谷川康夫さん(63)は「つかさんが生きていたら、この本を書くことはなかった。それでも、自分が話題になることを喜んでいるはず」と、つかさんに語りかけるようにあいさつ。

 『ウイルスは生きている』(講談社現代新書)で科学出版賞を受賞した神戸大教授、中屋敷均さん(52)は「理系の研究者が一般書を書いても研究費の獲得に役立たず、誰も褒めてくれないので書くべき人が書かなくなる。その意味で、普通の研究者に与えられる科学出版賞に感謝している」と喜びを語った。

2016年9月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです
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