【手帖】村上春樹さん「ポジティブな気概」好きだった

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 講談社の米国進出50周年を祝うパーティーが9月、米ニューヨークのニューヨーク・パブリック・ライブラリーで開かれた。村上春樹さんの小説の英訳で知られる日本文学研究者、ジェイ・ルービンさんをはじめ日米の出版関係者ら約250人が出席。初期作品の翻訳出版で関係の深かった村上さんから寄せられたお祝いメッセージも代読された。

 講談社の米への進出は1966年、英文書籍の出版を手掛ける講談社インターナショナル(KI)が現地での販売会社をカリフォルニア州に設立したのが始まり。後に拠点をニューヨークに移し、現在はホールディング・カンパニーのもとで傘下に3つの子会社がある。村上さんは89年にKIから『羊をめぐる冒険』の英訳を刊行。同社からは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ダンス・ダンス・ダンス』といった長編も翻訳出版している。

 絶大な権威を誇る雑誌「ニューヨーカー」と専属作家契約を結び、今や新作が翻訳出版されるたびに米国でもベストセラー入りする人気作家だが、当初からすんなりと受け入れられたわけではない。

 米の大学に滞在していた90年代初め、当時マンハッタンの五番街にあったKIのオフィスに「よくふらりと立ち寄っていました」という村上さん。メッセージの中では「KIから出版された僕の小説は、批評的にはそれなりに成功を収めたと思うのですが、正直なところ営業的には今ひとつでした。KIはもちろん一生懸命がんばってくれたのですが、アメリカのマーケットの壁は、新参の出版社にはやはり厚かったということなのでしょう」と当時を振り返った。それに続けて「しかし当時のKIには『いつかブレークスルーしてやろう』というポジティブな気概があって、僕はそういう明るい雰囲気がわりに好きだった。たぶん日本という国全体に、いろんな意味で熱気があったのだと思います」とも。

 英語圏への翻訳出版、という厚い壁を打破するために現地スタッフとともに汗を流す。そんな四半世紀前の挑戦を懐かしむ言葉は、かつての熱気や自信を失いつつある今の出版界への叱咤(しった)激励のように響く。

産経新聞
2016年10月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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