最近はものすごい勢いで国内外の政治が動いています。アメリカでは、泡沫候補だと思われていたトランプが次期大統領になりました。「ガンダム」や「スター・ウォーズ」などを例に、「政治の本質」を解いたSB新書『スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」』の著者・岡田斗司夫さんが、トランプ旋風が巻き起こったワケを解説します。
■「プロ」の政治家にイライラしているアメリカの有権者たち
2016年の政治関連で、最大の話題の1つが米国大統領選挙での「トランプ旋風」でしょう。
米国の不動産王ドナルド・トランプが大統領候補として名乗りを上げ、いつの間にか共和党の正式な候補にまでなってしまいました。そして、当選し、次期大統領を射止めてしまいました。
1980年代の半ばに、私はニューヨークのトランプタワーに行ったことがあります。当時、私はアニメ映画の『王立宇宙軍オネアミスの翼』を制作中で、ポストモダン建築を取材するためでした。2年ほど前にもまた訪れてみると、地下には「トランプ」ブランドのアイスクリーム屋があったりして「なんだこれは!」と驚きました。
ほかにも、トランプの名前を使ったお土産屋だとかレストランがたくさんあって、まるで叶姉妹のようなキャラクタービジネスを展開していたんです。そういう人が大統領候補として破竹の快進撃を続けたのは、本当に不思議でした。
トランプ旋風の理由としてよく言われているのが、有権者が「プロ」の政治家にイライラしているということです。
米国には確固とした政治家の出世街道があります。大統領になるためには、上院議員か下院議員にならなければいけない。議員になるためにはまず州知事にならなければいけない。州知事になるにはまずどこかの市長に……。
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ワシントンDCを中心にした巨大な政治サーキットがあり、そのトラックの内側へ内側へと駒を進めて、権力の中枢に近づいていく。それが米国の一般的な政治家コースになっています。
どんなに純粋な志を持っている人でも、このサーキットをぐるぐる回ってキャリアを積みあげていくうちには、悪い意味で「プロの政治家」になってしまう。米国の政治を根本から変えるような人は、なかなか生まれにくい構造になっているんですよ。
共和党だろうが民主党だろうが、誰であろうと、大統領選に出るような人の主義主張に大した違いはありません。
バラク・オバマが大統領候補になった時、「黒人の大統領が誕生すれば、いろんな物事が変わるはず!」とみんな期待しました。でも、あれほど期待された彼ですら、大きな変化は起こせませんでした。
どんなに優秀そうな人が大統領候補として出てきても、アメリカ人の多くは「でも、どうせプロの政治家でしょ?」と白けている。だから、これまでの政治サーキットとは無関係なトランプを支持する人が多いというのはわかります。
実を言うと、私にも同じような経験があります。1993年の衆議院議員総選挙では悩みに悩んだ末、社会党に入れたんですが、その後、村山政権誕生につながって大後悔です。ついでに言うと、1992年の参議院議員選挙ではUFO党に入れました。人生の中で考えに考えて投票した先が社会党、UFO党というのは……「90年代、自分がやってはいけなかった」リストのトップです(笑)。
「トランプはデタラメだけど、本音を言うだけマシ」の心理
なぜ私がこの時、そんな判断をしたかと言えば、「既存政党の中からもう誰も選べない」と思ったから。心の裏にはやはりプロの政治家に対する嫌悪感があるんでしょう。
だから、アメリカ人が「トランプはデタラメだけど、本音を言うだけマシ」と考えるのも理解できる。ヒスパニックや黒人、イスラム教徒に対する差別はひどいし、本当にダメな奴だと思うけど、欠陥商品だとはっきりわかる。これに対して、ヒラリーのキャリアは非の打ち所がないし、法廷で争っても絶対に自分の欠陥は認めない。
一見完璧だけどもしかしたら欠陥商品かもしれないヒラリー・クリントンより、髪型も含めて欠陥丸出しのトランプの方が人間らしいと考えるのは、ある意味自然です。
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