小説『ビルマの竪琴』で知られる昭和のドイツ文学者で評論家、竹山道雄(1903~84年)の選集『竹山道雄セレクション』(平川祐弘編、藤原書店)の発刊が始まった。全4巻構成で各巻4800円+税、隔月刊予定。
竹山は大正15年に東京帝大独文科を卒業、独仏への留学を経て旧制一高教授となり、戦後は文筆業に転じた。現在ではもっぱら『ビルマの竪琴』の作者として記憶されるが、戦前は軍国主義やナチス、戦後は共産主義を批判し、時流に流されない穏健保守の立場から日本近代や西洋精神史の問題を論じる傑出した知識人でもあった。
今回の選集ではそうした言論人としての面を中心に、従来の単行本や著作集に未収録の作品も多数収めている。
第1巻「昭和の精神史」は10月刊行。竹山の代表作といえる、昭和の戦争に至る国内潮流をマルクス主義に反駁(はんばく)する形で描いた表題作のほか、東京裁判やナチス・ドイツに関する諸論考も収録。
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- 昭和の精神史
- 価格:5,280円(税込)
特に昭和15年に発表された「独逸(ドイツ)・新しき中世?」はその後の悲劇を予見した先見性が光るナチス論。自由放埒(ほうらつ)なワイマール共和国から一転し、社会のすべてを徹底的に組織化し統制するナチス体制を「この国の事柄はすべて極端から極端へと反動してゆく」と、近代ドイツ史の流れの中に位置づけて分析。「『思考の自由』という一点に関する限り、英仏側が勝てば、少なくもわれらの生きている間位は、これは何らかの形に於(おい)て救われ得る。独逸が勝てば、そんなものはわれらから立ちどころに根柢的に奪われるであろう」という、当時としては非常に大胆な同盟国批判が印象的だ。
解説は近現代史家の秦郁彦氏。また東京裁判研究で知られる牛村圭・国際日本文化研究センター教授が竹山と同裁判の関係をめぐる論考を寄せ、オランダのレーリンク判事と竹山との意外な交流や相互影響について紹介しており、読ませる内容となっている。(磨井慎吾)
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