ビジネス戦略にも通じる「戦車の戦い方」とは?

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「戦車」の存在を知らない人は、ほとんどいないと思います。しかし、戦車が「どのように戦うのか」、「何が戦いの勝敗を決めるのか」を正確に知っている人は少ないでしょう。北海道の機甲科部隊・第71戦車連隊の連隊長までつとめ、『戦車の戦う技術』(サイエンス・アイ新書)を著した、木元寛明氏(元・陸将補)は、「戦車の戦い方」は「ビジネス戦略」にも通じるものがあり、「集中させること」が重要だといいます。その理由を語っていただきました。

■戦闘力の「集」「散」「動」「静」とは?

 日本海海戦当時(1905年5月)の連合艦隊参謀・秋山真之は、日本海軍きっての戦術家でした。

 戦術教官・秋山真之が、日露戦争の前後に海軍大学校で甲種学生に講述した内容が、講義録『海軍基本戦術第二編』として、まとめられています。

 秋山真之は講義録の中で、戦闘力の集・散・動・静の組み合わせにより、強いものが勝ち、弱いものが負ける、いわゆる「優勝劣敗」という戦理が成立する、と明快に言い切っています。

「集」――戦闘力は集めれば強くなる。
「散」――戦闘力は分散すれば弱くなる。
「動」――戦闘力は動かせば強化する。
「静」――戦闘力は静止すれば弱化する。

 戦車部隊の特性は、装甲により防護された正確な火力および機動力を駆使して衝撃効果(shock effect)を発揮し、目視距離内で戦闘して敵を圧倒撃破できることです。

 ここで誤解のないように補足しますが、現代戦では純粋な戦車部隊だけではなく、各兵種が一体となったコンバインド・アームズ(諸兵種連合部隊)で戦うことが基本であり、各国軍隊の常識となっています。

 戦車を基幹として機械化歩兵、自走砲兵などで編成する部隊が機甲部隊(armored force)、機械化歩兵を基幹として戦車、自走砲兵などで編成する部隊が機械化部隊(mechanized force)です。機甲部隊も機械化部隊も、すべての戦闘車両や支援車両は装甲化され、履帯(キャタピラ)で移動します。

 機甲部隊・機械化部隊の戦闘力を最大限に発揮するためには、「集」×「動」の組み合わせが最適です。したがって、このような部隊を集中して動かす「攻撃」は、戦闘力を最大限に発揮できる戦術行動なのです。

 逆に「防御」という戦術行動は「散」×「静」という組合せになり、戦闘力が分散し、かつ弱化してしまいます。

 集中の原則(mass)は、古今東西、列国が兵術の基本原則として重視してきました。『作戦要務令』綱領にいう「戦捷の要は、有形無形の各種戦闘要素を綜合して敵に優る威力を要点に集中発揮せしむるに在り」は、表現は古いのですが、不変の原則といえるでしょう。

■戦車の戦いはランチェスターの2次則

 集中の原則はランチェスターの交戦理論の数理で証明されます。ランチェスターの交戦理論は、両軍の兵力損耗を連立微分方程式で定式化したもので、代表的モデルとして、1次則モデルと2次則モデルがあります。

 1次則モデルは一騎打ちの法則で、勝者と敗者の兵力損耗は等しくなるというものです。たとえば戦国時代の合戦のように、刀槍弓矢などによる個人の戦いの集積が合戦の結果を決めました。いくつかの前提はありますが、基本的には相手側より多くの兵力を集めて決戦を行うことが戦勝の決め手でした。

 2次則モデルは総合戦闘力で戦う近代戦を対象とし、戦闘力は兵力数の二乗に比例し、集中すればするほど圧倒的に優勢となることを示しています。近代戦は兵士の1対1の戦いではなく、武器の主力は火砲(小銃、機関銃、大砲、ミサイル、戦車など)となり、戦闘はシステム的に行われます。

 2次則モデルは戦車対戦車、軍艦対軍艦、戦闘機対戦闘機の戦いなどの場面にも適用できます。例えば、資質・装備が均質・均等な兵力5対3の戦車部隊がお互いに全力で戦った場合、劣者がゼロになったとき、優者はどれだけ生き残るでしょうか? 答えは4です。

 ランチェスターの2次則モデルでは、次のような計算式が成り立ちます。

  5^2-3^2=x^2-0=4^2 (答え)x=4

 このモデルによれば、兵力3の戦車部隊が0に減じたとき(全滅したとき)、兵力5の戦車部隊は4すなわち80%生き残ります。両軍の相対的な戦力比(訓練練度、火器の性能など)を表す交換比を1と仮定した場合(両軍は等質の部隊)の単純化した計算式です。

 お互いの戦車部隊を均質と仮定し、500両の戦車と300両の戦車が、大平原あるい砂漠で全力展開して戦えば、一方は400両の戦車が生き残り、もう一方は全滅するというすさまじい結果になります。これは決して荒唐無稽な数字ではありません。ランチェスターの2次則モデルは、多くの戦史データからもその有効性が証明されているのです。

 発想を逆転して考えれば、全体として兵力が劣勢であっても、決勝点に優勢な兵力を集中すれば、戦勝を獲得することができます。古来、寡兵をもって大敵を破った戦例がたくさんありますが、このような「集中」できる状況をいかにして作為するか、指揮官の力量すなわち戦術能力が問われる場面であります。

 F・W・ランチェスター(英国)が1916年に発表したランチェスターの法則は、古代から現代までの戦争の経験から帰納された「集中の原則」を数理として説明し、優勢兵力必勝の原則として著名です。

 今日では軍事OR(オペーレーションズ・リサーチ)だけではなく、社会や経済活動などの幅広い分野に応用されています。第2次世界大戦後のわが国では、ORは主として経済的な面から注目を浴びました。そして、ランチェスターモデルは販売競争の分析モデルとして、マーケティングの分野で広く応用されています。

 戦車運用の原則は“集中”と“機動打撃”ですが、マーケティングと市場の関係もこれとよく似ていると言えるでしょう。

SBCrOnline
2016年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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