うざカワイイ異界の友だち?人外ショタとニートの日常『ニヴァウァと斎藤』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第21回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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ニートと水生生物の奇妙な日常
『ニヴァウァと斎藤』ながべ

「異文化コミュニケーション」という言葉が最近になってまたよく使われるようになってきた。しかし、マンガの世界ではずっと昔からあったことで、異なった文化の出会いこそが作品作りの基本だったのだ。手塚治虫の『鉄腕アトム』は人間とロボットの相克(そうこく)が重要なテーマになっていたし、横山光輝の『魔法使いサリー』に端を発する「魔法少女もの」も人間界と魔界の出会いから始まる物語になっている。
 日本の戦後マンガ史上でもっともたくさん異文化の出会いを描いたのは藤子・F・不二雄だろう。『オバケのQ太郎』も『ウメ星デンカ』も『ドラえもん』も、主人公の少年の日常に異界の友達がやって来る、という設定だった。読者だった我々は、微妙なすれ違いを笑いながら、なんとなく異文化を受け入れることの喜びに触れていたのだと思う。
 誰とでも上手く付き合うコツは、お互いの違いを受け入れること。それを教えてくれるのがマンガなのかもしれない。
 今回紹介する、ながべの『ニヴァウァと斎藤』もそんなマンガのひとつだ。

 ***

 主人公の斎藤浩太郎は28歳のニート。古いアパートで気軽な独り暮らし。仕事のない斎藤に代わってアパートを探し、家賃を出してくれているのは、一流企業で働く弟の信次郎。弟との間にはアパートを借りたら仕事を探す、という約束もあったのだが当然のことながら守られてはいない。

 ある日、斎藤の部屋に現れたのは地球の地下深くに独自の文明を築いた水生生物・アーフィカ族の子どもニヴァウァ。アーフィカ族は人間の文化を学ぶために、これまでにもときどき地上に現れていたのだ。ニヴァウァは人間の年齢に換算すると6~7歳。小学校1年生くらいだね。身長は70センチ。魚のようなしっぽがあるので、それも加えた全長は140センチになる。空気清浄機を兼ねた翻訳機をいつも口にくわえているので、人間語もちゃんと話せる。
 好奇心旺盛なニヴァウァの行動は、斎藤にとってはとにかくうざい。なにしろ斎藤は子どもが大嫌いなのだ。それなのにニヴァウァを追い出せないのは、彼をあずけに来た母親のラウェローナが、「ニヴァウァになにかあればあなたを食べます」と脅したから。マンガはふたり(?)の奇妙な共同生活を描いていく。

 ニヴァウァが抜群にかわいい。人間の世界のありとあらゆるものに興味津々。いまどきこんなにキラキラしている子どもっているんだろうか? しかも、とっても素直。斎藤に怒られたらちゃんと反省するし、いつも斎藤の役に立ちたいと考えている。それが失敗につながるんだけど、そこがまたかわいい。
 斎藤も、子どもが嫌いという割にはやさしい。はじめは命が惜しかっただけかもしれないが、だんだんニヴァウァが大切な存在になっていく。弟の信次郎は、ニヴァウァのハートを捉えている兄を羨ましく思っている(らしい)。
 ニヴァウァの姿が見えなくなって、斎藤が必死で探し回るエピソードもある。ニヴァウァはアーフィカの村に報告するために、ちょっと出かけていただけだった、と知った時のうれしそうなこと。「ばぁか!!!」と怒鳴ったのも心配と嬉しさ故だ。このあたりの表現はうまいなあ。

 夜中までゲームやネットサーフィンに明け暮れていた斎藤の日常も、ニヴァウァの登場によって変わっていく。外に出たいというニヴァウァを連れて出かけたことで、それまで気にもしていなかった近所の様子もわかってくる。そして、大家さんや隣人との新たなコミュニケーションもはじまる。
 ニヴァウァが、お隣に住んでいる『リング』シリーズの貞子そっくりのくら~い女性と仲良くなろうとがんばるエピソードがいい。「人間 ぜひ知り合いましょう」と声をかけたニヴァウァは、無視されても追い返されても、仲良くなろうと声をかけ続ける。やがて、かたくなだった彼女も、ニヴァウァに心を開いていく。

 今の世の中はご近所付き合いも希薄になってしまったが、ニヴァウァを通して斎藤は新しいコミュニティを作り上げていく。このマンガは、現代人が失ったものを取り戻していく物語でもある。
 ニヴァウァを心配したアーフィカ族の両親がやってきたとき、ニヴァウァは「父はとても強いんです」「そんな父が私に会いたがるなんて意外でした」とつぶやく。それを聞いた斎藤は、久しぶりに実家の母親に電話をかけた。ニヴァウァによって、斎藤は家族とのつながりも取り戻していくのだ。

 読み始めた頃は、「なんでニートと水生生物なんだろう」と考えないでもなかったが、読み進むうちに、斎藤が世間とのつながりを絶って独り暮らしをするニートだ、というのは最適な設定だ、と思うようになった。
 この先の展開が楽しみなマンガのひとつだ。

中野晴行(なかの・はるゆき)

1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2016年12月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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