【手帖】『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション』刊行開始

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 『十五少年漂流記』『海底二万里』などの小説で知られるフランスの作家、ジュール・ヴェルヌ(1828~1905年)の新訳選集『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション』(インスクリプト)の刊行が始まった。全5巻構成、4200~5800円(税別)で、来年秋の完結予定。

 冒険小説を多数手がけ、またSFの祖の一人としても知られるヴェルヌは、日本でも明治時代から翻訳され、また児童向け作品としても多く翻案・改作されてきた。だが、読まれているのは特定のタイトルに偏り、広いジャンルにわたって多量の作品を残したヴェルヌの作家としての業績の全貌については、これまで十分な紹介がなされていなかった。

 今回の選集は、ヴェルヌが作家としてデビューした直後から没後まで刊行が続いた、長編だけでも60編以上にのぼる小説群〈驚異の旅〉シリーズから名作をえり抜いた。同シリーズの作品は、半数近くが未邦訳という。気鋭の仏文学者が単行本の各版、雑誌掲載版およびヴェルヌの草稿などを参照しつつ、各作品の最終バージョンとなるテキストを確定。オリジナル版の挿絵もそのまま収録し、日本語訳の定本となる“決定版”を目指した。第5巻の『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』など、本邦初訳作品も含まれる。

 第1回配本『地球から月へ 月を回って 上も下もなく』(石橋正孝訳、5800円+税)は、従来『月世界旅行』『月世界へ行く』『地軸変更計画』として邦訳されていたSF3部作の新訳。南北戦争後の米国を舞台に、失業した火砲関係者らでつくる「ガン・クラブ」が、巨大な大砲が撃ち出す砲弾で人間を月に届ける計画を実現させるまでの一部始終と、砲弾の月面旅行および帰還後の再度の珍計画をめぐるドタバタを描く。

 第1作は、日本では幕末にあたる1865年の刊だが、砲の設計や発射計画は当時の冶金学や弾道学などを用いてしっかりSF的説明がなされている。砲弾発射時のショックを内部の人間がしのぐための水と木の板でできた衝撃吸収装置や、エーテルに満たされた宇宙空間など、19世紀的な牧歌的宇宙観も今読むとかえって面白い。(磨井慎吾)

産経新聞
2017年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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