宇治拾遺物語(『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08』所収) [訳]町田康

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日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』

著者
福永 武彦 [訳]/町田 康 [訳]/伊藤 比呂美 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309728780
発売日
2015/09/14
価格
3,132円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

宇治拾遺物語(『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08』所収) [訳]町田康

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 きっかけは伊藤比呂美の文章だった。東京新聞に載った伊藤の、町田訳『宇治拾遺物語』についてのエッセイに、町田の新訳朗読を聞いて「脳天をぶち割られちゃった」と書いてあったのだ。最後は「町田、コロス」と、結ばれている。

 伊藤比呂美といえば古典に造詣が深く、『宇治~』と同じ「日本文学全集」の巻に収録された『日本霊異記』『発心集』の訳を担当している。その人にここまで言わせるなんてただごとではない。慌てて手にとり、めくるめく読書体験をした。

 とにかくおもしろい。もともと種々雑多な、おもしろい話ばかり集めた説話集なのであたりまえといわれればあたりまえだが、古典を読むときに感じる、昔の人と自分とを隔てる垣根がまったくない。彼らが何におどろき、何をおもしろいと感じ、どういうことに下世話な興味を抱くのか、それこそ週刊誌を読むぐらいの感じでするすると理解できる。

「こぶとり爺さん」や「わらしべ長者」、「鼻」「芋粥」などなじみのある話も、ぜんぜん知らない話もあるが、どちらも同じ調子で読めるのが訳者の手腕だ。「リーダー」「ルックス」「パニック状態」といった、いまどきの言葉がちょこちょこはさまれ、えもいわれぬおかしみがある。

 考えてみれば鎌倉時代の人だって、「最前、ちょっとおもしろいことがありましてね」「こんな不思議な話知ってます?」と人に言うとき、声の調子を変えたり、ふざけて新奇なことばを使ったりもしただろう。そんなふうに想像がひろがる。

 そして町田康の小説の読者なら間違いなく、「これ、町田さんが書いたんじゃ?」という不思議な思いにとらわれるはずだ。書きのこして、死んで、何度か生まれ変わって、いま町田康という作家になっているのでは。それほど作者と訳者は時空を超えて共鳴し、いにしえの声をいまに響かせる。思いのままに読者を笑わせ、驚嘆させるのである。

新潮社 週刊新潮
2015年11月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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