バーという嗜み [著」伊藤学

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バーという嗜み

『バーという嗜み』

著者
伊藤 学 [著]
出版社
洋泉社
ISBN
9784800307347
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

バーという嗜み [著」伊藤学

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 バーにはバーテンダーがいる。そう、バーテンダーのいる店をバーと呼ぶのです。著者はバーテンダー歴25年のベテラン、敷居が高いと思う初心者に、優しく手ほどきします。

 バーは大人の社交場、あまりカジュアルな服装は似合いません。シャツは襟つき、つまりポロシャツにジャケットでいいのですが、著者はオシャレをして行くと更に楽しいとも言います。

 さて最初の一杯を何にするか? ジン・トニックが定番だそうです。とりあえずビールなどと言ってしまう私は失格なわけで、それではバーテンダーの腕の振るいようがないのです。定番を頼み、二杯目をバーテンダーに委ねます。バーテンダーは質問をします。ベースの酒、その強弱、甘めか辛めか等、そうして客とバーテンダーの会話が始まるのです。

 読み進めるうち、若き日を思い出しました。当時山口瞳に凝っていて、エッセイに出てくる銀座の“クール”に勇を鼓して乗り込んだことを。緊張の極みでしたね。マティーニを飲み干したところで周囲を眺めることができました。不思議です。けっこう混み合っているのに、割と静かなのです。「一人、もしくは二人、最大でも四人で」と著者は記しますが、それ故の雰囲気であったのだと納得したのでした。

 背のびしてあの空間に身を置いたことは貴重な経験でした。何といういいタイトル「バーという嗜み」の世界に、足を一歩踏み入れた瞬間だったのですから。そして嬉しいことに、著者もまた若き日に“クール”の体験をしているではありませんか。

「よいバーはよいお客さまがいてよいバーテンダーがいる」と、著者は定義しています。人が雰囲気を作り上げるということでしょう。バーテンダーのいる行きつけの店が私には三軒あります。秋も深まり条件は整いました。ドアがギィと鳴く、あのバーを目指します。今宵はギムレットと参りましょうか。

新潮社 週刊新潮
2015年11月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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