バビロンⅠ―女― [著]野崎まど

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バビロン 1 (女)

『バビロン 1 (女)』

著者
野崎, まど
出版社
講談社
ISBN
9784062940023
価格
759円(税込)

書籍情報:openBD

バビロンⅠ―女― [著]野崎まど

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 一〇月二〇日、ライトノベル系の新レーベル“講談社タイガ”が発足した。森博嗣、西尾維新等、第一回配本から人気作家が登場するが、注目は野崎まど。二年前、長篇『know』で一躍注目を集めた鬼才だ。

『know』は電子技術で脳機能が拡張された近未来の京都を主要舞台に描いたSF活劇だったが、単なる電子情報戦ものではなく、最終的には人類の行方を占うテーマにまでいきつく傑作に仕上がっていた。

 今回の『バビロンⅠ―女―』はというと、東京地検特捜部が医大と製薬会社が癒着した不正事件を暴きにかかるところから幕を開ける。強制捜査を断行した正崎善検事は事務官の文緒厚彦とともに証拠探しの“物読(ぶつよ)み”を進めるが、その過程で血や毛髪と一緒に無数のFという文字が書き込まれた不審な書類を発見。それを書いたのは事件とは無関係の医大の麻酔科医・因幡だったが、彼は麻酔の過剰摂取で死んでいた。

 正崎は元衆議院議員・野丸龍一郎の秘書が因幡と連絡を取り合っていたことをつかむ。どうやら事件のウラには、東京の八王子他二市と神奈川県相模原市を統合して第二東京とする“新域構想”の域長選挙が絡んでいるようだった……。

 というわけで背景こそ近未来だが、序盤はライトノベルには珍しい社会派ミステリー仕様。それも正義感に溢れる検事ヒーローが活躍する、バリバリの正統告発劇スタイルだ。物語はさらなる衝撃的事件を経て、加速していくものの、事件の黒幕とおぼしき政財界のVIPと関わりのある人物がクローズアップされるあたりから違和感も漂い始める。

 選挙をめぐる陰謀が社会派ものらしい収束に向かう一方、事態はさらに一連の状況を呑み込んでしまう、SFともホラーともつかぬトンデモない方向へ向かい始めるのだ。タイガである以上、長尺シリーズになる可能性大だが、今後の展開は予測不能。期待の続巻は来春発売予定だ。

新潮社 週刊新潮
2015年11月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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