水中考古学 クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで [著]井上たかひこ

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水中考古学 クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで [著]井上たかひこ

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 考古学というと、つい「土中からの発掘」を思い浮かべてしまうが、遺跡や遺物はもちろん水中にもたくさんある。

 陸上での発掘調査もなかなかたいへんな作業だが、まして海中では、「そこにある」ことが見えているものさえ、簡単には引き揚げられない。それだけにいっそう、水中の遺物は人間を待っているように感じられるだろう。

 この本は、水面下にある遺跡や遺物を発掘・保存・調査する研究にたずさわる人が、自身の体験をふんだんに盛り込んで書いた「水中考古学案内」だ。冒険譚として楽しむもよし、未知の学問分野に刺激を受けるもよし。秋の夜長の読書におすすめです。

 中国や韓国が国を挙げて沈没船調査に取り組んでいることなどは本書で初めて知った。水没していた遺物を処理するノウハウが確実に蓄積され、あらたな史料を大量に提供しつつある。まさに論より証拠で、引き揚げた「現物」にまさる説得力をもつものはない。

 クレオパトラの宮殿からタイタニック号まで、時代的なひろがりもスケールが大きい。世界の海にはまだ沈没船が三〇〇万隻。日本のまわりにも遣唐使船、御朱印船、南蛮船など何千という船が眠っているとか。法律面も整備されつつあり、探査機器も発達してきた。今後あらたな「世紀の大発見」を目撃することになるかもしれないと思うと、胸が躍りますね。

新潮社 週刊新潮
2015年11月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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