ネットでの「爆買い」も支える中国eコマースの巨人

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アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略

『アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略』

著者
ポーター・エリスマン [著]/黒輪 篤嗣 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784105069513
発売日
2015/10/19
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ネットでの「爆買い」も支える中国eコマースの巨人

[レビュアー] 富坂聰(ジャーナリスト・拓殖大学教授)

 北京で時々訪れる友人のマンションにはコンシェルジュがいる。日本人がイメージするマンションの管理人ではない。いわゆる高級マンションのステイタスとしてのコンシェルジュである。ホテルマンのような制服を着て出迎えてくれる。小窓から来訪客を一瞥するあの管理人とは違う。

 その高級マンションの入り口には広々としたスペースがあり、このぜい沢な空間の使い方がハイクラスの排他性を強調しているようにも感じさせていた。

 ところがここ数年、マンションを訪れるたびにこの広々とした空間が狭くなっていることに気付かされた。コンシェルジュの横に設置されているロッカーが、来るたびに増設されているからだった。しかも、ロッカー一つ一つのサイズも大きくなる傾向にあり、大型のものだと人一人がスッポリ入ってしまうほどの容量がある。

「このロッカースペースが広がってゆくスピードは、ここの住民がどれほど凄まじい勢いで通販を楽しむようになってきているのかを知るバロメーターでもあるのさ。留守中に届く荷物を保管する場所が足りなくなって増設しているんだ」

 と友人は教えてくれた。聞けば、彼の友人たちの住むマンションでも同じような現象が起きているのだという。

「これはそのまま『淘宝(タオバオ)』や『天猫(ティーモール)』の勢いでもあるんだ」

 どちらも中国電子商取引の覇者といわれるアリババが個人向けに運営するショッピングサイトだ。特に淘宝の会員数は二億人を超え、その国内シェアは八割といわれる。

 二〇一五年の年が明けるころ、中国では若者を中心に手に持ったスマートフォンを激しく振って、落としてしまったことで壊れてしまい、大勢の人が修理に駆け込むという現象が広がったことがあった。これはアリババのライバル企業である騰訊(テンセント)が、電子マネーの主導権をめぐってアリババとの間で熾烈な争いを繰り広げるなか、アリババがユーザーを引き付けようと”お年玉”を用意したことで起きた社会現象であった。人々が”お年玉”をゲットするためには、「スマホを激しく振る」という仕掛けがあったことで、事故が多発したというわけだ。

 この一事に限らずアリババはこれまでたくさんの社会現象をつくりだしてきた。通販事業の強い需要に後押しされるように流通革命を引き起こしたのもその一つだ。

 もともとアメリカと同じく国土が広く、店舗での買い物に限界があるとされた中国は、通販との親和性が高いとされてきた。だが、フタを開けてみると親和性があったのは店舗が身近にない田舎よりも、むしろ都会の方であった。

 通販に熱狂する都市住民のニーズに後押しされ、通販サイトの品ぞろえはどんどん充実してゆき、それがまた人々を通販に引き付けるという相互作用のなかでアリババは急拡大を続けたのである。

 その過程では、「子供が売りに出されて問題になったこともあった」(北京の夕刊紙記者)。まさに中国ならではの「何でもあり」には驚かされるばかりだが、通販の隆盛は衰えることなく発展し続けたのである。

 この大躍進の立役者であるアリババの創業者ジャック・マーは、”戦う経営者”として知られる人物だ。これまで、国の規制や官僚主義と闘い、いくつもの風穴をあけてきた。そうした対立の中では、日本では官製メディアと揶揄される中国のメディアが、そろってジャック・マーの味方をする場面が見られた。それも国民からの圧倒的支持を取り付けている強みなのだろう。

 中国の経済界を代表する人物として全国民からの認知度も高くゆるぎない地位を確立したジャック・マーは、社会への影響力も強く、いまや「彼の存在自体が社会現象」(同前)とまで言われるほどである。

 中国の経済発展の黎明期に現れた経営者のほとんどは変わり者だといわれるが、ジャック・マーも例外ではない。本書は、アリババの副社長を務めた米国人の筆により、その神秘的で癖の強い人物像が余すところなく描かれているという点で実に興味深い。冒頭で紹介される、ジャック・マーのこんな言葉が印象的だった。

「わたしは百パーセント、中国製です。英語は独学ですし、テクノロジーのことはとんとわかりません。アリババが今まで生き残ってこられたのは、わたしがコンピュータ音痴だからでした。目の見えない人間が目の見えない虎の背にまたがっている。それがわたしです」

新潮社 波
2015年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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