【自著を語る】そのお金は「遺産」ではなく、あなたの「財産」です 山田みち子『相続なんか気にするな! 老後をもっと豊かにする「お金の生かし方」』

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【自著を語る】そのお金は「遺産」ではなく、あなたの「財産」です

[レビュアー] 山田みち子(相続士、ファイナンシャル・プランナー)

 この本を書くきっかけになったのは、出版企画部の郡司裕子さんにお目にかかったことからでした。昨年の夏頃、郡司さんが『親が倒れた! 桜井さんちの場合』という介護の本を作っていらして、「年金を介護費用にあてられるものかどうか」など、その手の専門家の意見を聞きたいという趣旨でした。

 取材が終わって雑談をしている時に、話が相続の話題になりました。その頃、今年1月から施行されることになっていた相続税改正のことで、テレビ新聞で連日「大変だ!」と人々を煽るような報道がされていました。

「大騒ぎすることはありません。大半の人は関係ないことだし、たとえ相続税を払うことになっても、親から相続した遺産の中から納税すれば済むことですから……」

 私はもともと保険会社の社員で保険を扱っていました。その後ファイナンシャル・プランナーの資格を取り、独立後に「相続士」の資格も取りました。「相続士」という言葉を初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。本書でも詳しく書かせていただきましたが、相続士は相続に関するさまざまなアドバイスとそれぞれの専門家をご紹介させていただく仕事です。

 相続という言葉はよく耳にしますが、実際に体験する機会はほぼ一生に一度または二度です。ふだんはほとんど関わりなく生活をしているので、いざその立場になってみると誰に相談していいのかわかりません。用意する書類もたくさんあります。遺産分割、遺言、節税などなど複数の専門家にお世話になることもあります。

 そんな方々に、入口に立ってご相談を受けるのが相続士の仕事です。独立以来さまざまな相続問題に関わってきました。そして多くの場合、相談にやってくるのは相続人――遺産を受け取る側の人たちです。この人たちの話を聞いているうちに「それで親御さんのご意思は?」と聞きたくなることがしばしばあります。資産を渡す側=被相続人の姿、意思が見えてこないのです。

 資産を持っている被相続人こそが主役のはずなのに、あたかも「資産」だけが存在しているかのように相続問題が相続人だけで進行するのは、おかしなことです。

 考えてみれば、会社勤めのサラリーマンが定年を迎えたとして、まだ六十歳。人生はまだまだ続きます。これまで蓄積してきた資産は、これからの人生を少しでも楽しく充実したものにするための重要な資金でもあります。

 私は相続のことをまったく考えなくて良いと言っているわけではありません。子供たちに残すことを考える前に、まずご自分でその資産を生かすことを考えるのが第一だ、ということを強調したいのです。

 被相続人=親がないがしろにされがちなのは、実は親の方にも問題があることがしばしばです。まず現状を見つめようとする姿勢が希薄で、老後の設計といっても面倒な顔をしたりします。「物言わぬ被相続人」が多いのです。

 実際に私が相談を受けて、生命保険、介護、老人ホーム……避けては通れない重要な話題に触れると、無関心だったり、はっきり忌避を表したりする人がいます。でもふんだんにお金があればそれでもいいでしょうが、ほとんどの人はそうではありません。

 私は相続士として専門知識をお伝えするだけでなく、相続をどう考えるのか、ということもお伝えしていこうとしています。なかでも重要なのは、ご自分が生きている間は、お金は「遺産」ではなくあなたの「財産」であるということです。

 それを踏まえた上で、被相続人が何の遠慮もなく、老後の人生を楽しみ、満喫する……、そんな生き方のヒントとお金との付き合い方を具体的に書いてみました。

 被相続人に向けた相続の本はなぜかほとんどありませんので、是非たくさんの方に読んでいただきたいと思っています。

新潮社 波
2015年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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