「だから、生きる。」 [著]つんく♂

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「だから、生きる。」

『「だから、生きる。」』

著者
つんく♂ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103395911
発売日
2015/09/10
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「だから、生きる。」 [著]つんく♂

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 二○一五年四月四日、近畿大学の入学式が行われた。式の総合プロデュースは卒業生であるつんく♂が一年前から担当している。ただ、前年は直前にわかった喉頭癌の治療のため出席することはできなかった。

 満を持しての登場。だが、元気そうにほほ笑むつんく♂が喋ることはない。彼が生きるために選択したのは、声帯の摘出だった。

 このニュースは瞬く間に広まる。近畿大学記念会館のスクリーンいっぱいに映しだされたつんく♂からの祝辞に、新入生だけでなく、それをテレビで観た人たちも涙した。本書の序章にはその全文が掲げられている。入学式という喜びの式に贈られた一言が胸に響く。

〈私も声を失って歩き始めたばかりの一回生。皆さんと一緒です〉

 二○一三年、「シャ乱Q結成二十五周年記念ライブツアー」を前にして、つんく♂は喉の不調に苦しんでいた。ボーカルとして、バンドを支える会杜の社長として、このツアーをやり遂げなければならないというプレツシャーに立ち向かっていたのだ。ツアーは大成功に終わった。しかし、その後行われた精密検査の結果、喉頭癌が判明した。

 放射線治療によって一度は消えた癌だったが、すぐに再発する。声帯摘出以外、選択肢はなかった。生きるため、家族を守るため、つんく♂は手術を受け入れた。

 歌手および音楽プロデューサーとして大成功を収めるつんく♂だが、何より大切なのは家族だった。妻、三人の幼い子供。守るべき弱い存在だと思っていた家族が、最後はつんく♂を守っていた。仕事仲問、歌手の友人、彼を取り巻く人たちの気持ちも支えとなる。

 先日、NHKの「SONGS」にパソコンでの筆談で登場したつんく♂。関西人らしいジョークを駆使したトークは昔のままだ。音楽家として新たな歩みが始まる。そう期待できる明るい笑顔であった。

新潮社 週刊新潮
2015年11月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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