藤野千夜・インタビュー「秘密にしていた漫研時代を書きました」『D菩薩峠漫研夏合宿』刊行記念

インタビュー

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D菩薩峠漫研夏合宿

『D菩薩峠漫研夏合宿』

著者
藤野 千夜 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103285229
発売日
2015/10/30
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『D菩薩峠漫研夏合宿』刊行記念特集 インタビュー 藤野千夜/「秘密にしていた漫研時代を書きました」

――『D菩薩峠漫研夏合宿』は自由な校風で知られる都内の某有名中高一貫男子校の漫画研究会に入った高校一年生の「わたし」が、夏の合宿で過ごした七日間を描く物語ですが、本の帯には「初の自伝的BL小説」「リミッターを外して書きました」とあります。藤野さんがご自身のことを描かれるのは初めてですよね。

 いえ、私は公称はフェリス女学院出身ですから、男子校出身ではありません(笑)。今年で作家デビュー二十年ですが、セクシャルマイノリティを主人公にした小説は、芥川賞をいただいた『夏の約束』以来、書きませんでした。そもそも一人称の小説というのも、ほぼ書いたことがなくて、『ルート225』はヤングアダルトという分類になるので一人称の方が馴染みやすいかなと思ってそうしたのですが、基本は三人称でした。今回はそういった自分の中での「制約」を一度見直して、秘密にしていた漫研時代を一人称で書いて、今まで書かなかった「自分に近いこと」に挑戦してみました。

――一九七〇年代の社会的な出来事や、アニメや漫画のタイトルとか、ディテールが非常にリアルです。

 あやふやな記憶を辿って、当時の出来事を思い出しながら書いていきました。例えばD菩薩峠から尾瀬に行ったと思い込んでいたのですが、書くときに改めて地図を見たら、あまりに遠くてそんなはずはないなとわかったりして、それくらい曖昧な記憶です。ただ当時、自分のよく見ていなかった物事に関しては、あえて曖昧なままにして、そこに記憶をつなげることで小説化していったところはあります。

――自分はおかしなフェロモンでも発しているのだろうか、「治らないはしか」を患っているのではないか、と主人公の悩みや苦しさが胸に迫ってくる一方、部室で生徒同士がいちゃついている場面などには驚かされました。

 とにかく自由な学校だったので、高校生くらいになると男の子が男の子を好きになるのも割とオープンで、遊び半分も含めれば、全体の一割くらいがそうなのかな、とも思える感じでした。放課後の教室や漫研の部室で、膝枕していたり、ちゅっちゅ、ちゅっちゅしているのもよく見ましたよ。私自身は幼稚園の頃から、将来は女の人になると信じていましたが、別に変だとも思わず、特に小さい頃は鏡台にあった口紅を塗ってみたり、マニキュアを塗ったりして、親も気づいていたと思うけれどスルーされていましたね。

――学生生活は主人公の「わたし」に近いものでしたか?

 学校はそんなに好きではなかったので、あまり行かないで、漫画と小説を読んで映画を見に行って、教室では授業中も放課後もずっと何かを読んでいました。中一から漫研に入ったのですが、漫研は好きでした。合宿も楽しい思い出で、ただ書くには時間が必要だったというか、三十五年前をたどる形をとれたから書けた小説だと思います。実際に「ジャック」のモデルが数年前に亡くなって、その時は本当にあふれるように思い出が蘇ったのを覚えています。ゲラを読み直して、ちょっと泣きました。

――各章のタイトルが、池田理代子、岩館真理子、一条ゆかり、永井豪などの当時の漫画と同じで、たくさんの漫画の話が出てきますが、執筆中ご自身の漫画歴を振り返られましたか?

 本当を言うと太刀掛秀子さんの『花ぶらんこゆれて……』だけまだ当時は描かれていなかったんですが、どうしても使いたくて。小学生の頃は自分で「りぼん」や「少女コミック」「マーガレット」を買って『ベルばら』とかも夢中で読んでいました。でも『はだしのゲン』が載っていた「ジャンプ」も読んでいましたよ。『トイレット博士』とか、少し前だと『ハレンチ学園』も読んで、中学に入ってからと遅いんですけれど、手塚治虫も大好きでした。とにかく漫画が好きで、家族旅行でも修学旅行でも、ずっと漫画を読んでいたので風景も何も覚えていないんです。この小説を書くために当時の漫研の同人誌を引っ張り出して読んでみたら、みんな中高校生なのに大人っぽい漫画を描いているんでびっくりしました。

――藤野さんも漫画家になりたかった?

 いえ、小説にも書きましたが、進路希望調査で将来の夢を聞かれると「イギリス王女」と書いたくらいです。その前は「あべ静江」でした(笑)。担任には「はいはい」と受け流されましたけど、本気でした。

――藤野さんは、共通一次の国語の試験問題になっていた「鳥寄せ」という短編小説に感動して、試験の帰りに書店でその本『木馬の騎手』を買ったというエピソードがありますね。

 あの小説で試験中に泣きました。三浦哲郎さんの小説はそれをきっかけに好きになったのですが、「鳥寄せ」が最初に掲載されたのが「波」だったそうで、今回同じ雑誌に連載することが出来て感慨ひとしおです。芥川賞の選考会でも三浦さんが推して下さったと聞きました。うれしかったですね。

――この小説は藤野さんにとってどういうものになりましたか。

 たまたまですが一昨年から、『君のいた日々』『時穴みみか』とノスタルジックな要素のある作品をつづけて発表しました。今回はいよいよ作者が登場して、過去の恋心を語る話です。自分にとっての『野菊の墓』みたいな小説だと思っています。

新潮社 波
2015年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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