ペリー荻野×中村獅童・対談 演じてみたい、観てみたい、日本の偉人は誰だ! 『バトル式歴史偉人伝』刊行記念

インタビュー

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バトル式歴史偉人伝

『バトル式歴史偉人伝』

著者
ペリー 荻野 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103394211
発売日
2015/07/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ペリー荻野『バトル式歴史偉人伝』刊行記念公開対談 ペリー荻野×中村獅童/演じてみたい、観てみたい、日本の偉人は誰だ!

お芝居から歴史にアプローチしても、いいじゃない。
歴史を体現する俳優と、時代劇から歴史を見る作家の大放談!

 剣豪の理想と現実

ペリー荻野
ペリー荻野

ペリー 私、「いま歴史を語りあうなら、お相手は獅童さんしかいない!」と思っていたので、今日は歌舞伎座から駆けつけていただいて本当に嬉しいです。Eテレ「歴史にドキリ」で大活躍ですよね。皆さん、ご覧になったことあります?

獅童 ハハハ。ありがとうございます。

ペリー 解説しますと、「歴史にドキリ」は小学六年生の社会科用の教材番組で、全国約五割の学校で授業に採用されています。始まってもう丸三年になりますか。獅童さんは学習指導要領に載っている歴史上の偉人すべてに扮し、ヒャダインさん作曲の歌と振付稼業 air:man さん振付の踊りに乗せてノリノリで史実を伝える。これ、前代未聞の教育番組です。

獅童 ふざけてると思われがちですが、とんでもない。すごく大変なんですよ。一回十分の番組なんですが、収録に三日ぐらいかかります。

ペリー でも、楽しみながら歴史を学べる今の子たちが羨ましい。

獅童 手応えはありますね。市川中車(香川照之)さんの息子の團子くんは毎回見てくれているそうで、僕の楽屋に来ては「卑弥呼やって!」とか次々リクエストするんです。楽屋では支度で忙しいのですが、とても嬉しいですね。この間は歌舞伎座の前に停まった観光バスの中から三十代くらいの女性の方達がワーッと手を振って下さって、「私たち学校の先生なんです。『歴史にドキリ』見てまーす」。先生にお礼を言われるなんて初めてです。

ペリー 獅童さんご自身は歴史は得意なんですか?

獅童 得意じゃないです。歌舞伎役者だから詳しいでしょって言われるんですが、そういう世界にいるせいでかえって安心しちゃって勉強しない。

ペリー 私も歴史、苦手だったんです。時代劇研究家を名乗ってるから歴史通だと思われるんですが、「木枯し紋次郎」や「子連れ狼」を千回見ても歴史の知識は蓄積しないし、ずっと不得手なままで。それでこの年齢になって学び直そうと『バトル式歴史偉人伝』に取り組みました。歴史上、似たような立ち位置にいる人物を勝手に対決させて勝手に勝敗を決めるエッセイで、だいたい面白い人生を送ってる方が勝者です。獅童さんが演じてらした役だと柳生十兵衛と宮本武蔵を戦わせてます。

獅童 それ、面白いですよね。

ペリー 武蔵ってストイックに剣の道を極めたように描かれますけど、平和の世が訪れて剣が不要になると、いろんな藩に就活しに行ってるんです。で、ことごとく失敗してる。その理由を調べてみると、なんと武蔵はお風呂ギライだったそうで、あまりの臭気に困惑したと書き残してる人もいるぐらい。

獅童 (苦笑)

ペリー 一方の十兵衛は謎の多い人物で、旅に出たまま十年くらい行方不明になるんです。その間に剣の修行をしてたんじゃないかっていうことで千葉真一さんが時代劇で演じたり。想像力をかきたてる人物ですよね。獅童さんは剣豪を演じてみてどうでしたか?

獅童 気分いいですよ。映像の場合は特に。東映の立ち回り専門の役者さんたちが上手にやって下さると、僕が本当の剣豪みたいに見えるんです。

ペリー 東映にはその道のベテランの方たちがいますからね。

獅童 初めて福本清三さんを斬らせていただいた時は感動しました。叔父の萬屋錦之介にも何百回と斬られてる方ですから。カットの声がかかったあと、「ありがとうございます!」って握手してもらって(笑)。

ペリー 十兵衛みたいに隻眼の役だと、立ち回りはすごく難しいでしょう?

獅童 方向感覚と距離感がわからなくなるので、相手にケガさせないよう気を遣います。舞台で丹下左膳をやった時なんか三時間以上その状態で、クタクタになりました。でも、なぜか僕は隻眼の役が多い。森の石松もやりましたし。

ペリー あと伊達政宗をやれば隻眼役コンプリート。どうですか、政宗は。

獅童 やりたいですねえ。そろそろまた大河ドラマで政宗をやらないかな? 僕、今すごくいい時期だと思うんですよ(笑)。

ペリー 皆さん、NHKに要望のお便りをよろしくお願いします!

 近松VSシェイクスピア!

中村獅童
中村獅童

ペリー 私が「歴史にドキリ」で獅童さんの凄味を一番感じたのは近松門左衛門の回。文楽と歌舞伎で「曽根崎心中」を見せる場面があって凄かったなあ。

獅童 あれは本当の文楽の方たちにやっていただいてます。歌舞伎を演じたのは僕とうちの弟子ですし、振付も僕らが手掛けたので、そこだけまさしく歌舞伎の一場面。

ペリー 近松は文楽・歌舞伎と密接に関係する作家ですもんね。

獅童 とても感慨深かったです。

ペリー 近松って面白い人で、芸能レポーターみたいな取材をしてるんです。飲み屋にいても、どこかで心中事件が起きたと聞けばすぐに駕籠を飛ばして現場を見に行く。それで一気に書いて一気に上演。だから歌舞伎や文楽って、今でいう再現ドラマみたいなものですよね。

獅童 そうそう、現代でも起こるような日々の事件を題材にして、流行から何から観客の喜ぶものをすべて取り入れた芝居、それが歌舞伎です。だからお上の圧力で上演禁止になった演目もたくさんあるし、今でこそ伝統芸能だとか言われてますけど、あんなもの見ちゃダメだと言われた時代もある。傾き者と言われた先人たちが様々な力と闘いながら生き残ってきた芸能だと思っているので、そういう「傾く」精神を我々も持ってなきゃいけないと思いますね。

 そうだ。近松とシェイクスピアのバトルってどうですか?

ペリー ちょっと……調べるのに膨大な時間がかかりそうな。

獅童 同時代に、遠く離れた国にいた二人が、共通する作風を持っていたなんて、すごく不思議じゃないですか。

ペリー じつに俳優さんらしい視点ですね。でも『バトル式』では、近松を河竹黙阿弥と対決させていて……すみません、黙阿弥が勝ってます。

獅童 近松や黙阿弥って現代でいうと野田秀樹さん、三谷幸喜さん、宮藤官九郎さんという感じですよね。皆さん歌舞伎の台本も書かれてますし。

ペリー きっと百年後のペリーがお三方のバトルを書きますよ。二十一世紀のペリーには、とてもじゃないけど勝敗は決められません(笑)。

 ゴレンジャーでいえばキレンジャー

ペリー 私は獅童さんが小学校の学芸会でやった役の話を聞いて、獅童さんが大好きになったんですけど。

獅童 ああ、ピーターパンのウェンディですか?(会場爆笑)

ペリー 学芸会デビューが女形。

獅童 ひどい話で、「ウェンディ役は誰が良いと思いますか?」ってアンケートをとったらクラスメイトが「小川くーん」。なんでなのか聞いたら「小川くんは歌舞伎だからー」。それでやることになって、本番でお袋のスケスケのネグリジェ着て舞台に出て行ったら、もう体育館が揺れるほどの大爆笑。すっごく恥ずかしかったけど、それで人に笑われる快感を知ったんですよね。

ペリー その話を聞いて、獅童さんは根っからの俳優だと思いました。

獅童 僕は目立ちたいのに恥ずかしがりという面倒くさい性格で、今みたいに素のままで人前にいるのが一番恥ずかしいんですよ。演じてる時が一番楽。

ペリー ヒール(悪役)みたいに言われてる人の役はどうですか? 田沼意次と柳沢吉保にヒール対決をさせてるんですけど、これがなかなか人間臭くて。低い身分から上様に乗っかって急上昇して権力をほしいままにし、賄賂ももらった庶民の敵だって言われてますが、田沼なんかは自分の倫理感覚がゆるいから、社会全体の規制もゆるくなって、文化がすごく発展するんです。

獅童 好きです。そんな一癖ある人。

ペリー 癖のある人が好きなのは舞台の経験を積んだからですか?

獅童 昔からです。僕、子どもの頃から変わってたんだと思いますよ。全然人気のなかった日本版スパイダーマンが大好きだったし、「ゴレンジャー」で言うとキレンジャーが好きっていう。

ペリー じゃあ、近藤勇と土方歳三が対決して、もし獅童さんがジャッジするとしたらどちらを勝たせます?

獅童 土方ですね。頭が切れるし、時代を開拓していく先進性と生き抜いていくための熱量を強く感じる。

ペリー 高杉晋作と坂本龍馬なら?

獅童 やっぱり龍馬じゃないですか。圧倒的にドラマティックですよね。

ペリー じゃあ、歴史上の人物で今後演じてみたいのは誰でしょう?

獅童 さっき言った政宗と、織田信長はやってみたい。明智光秀もいいな。

ペリー 見たい! どんどんやって下さい。それにぜひぜひ時代劇もお願いします。

獅童 やりたいですねえ。見てる人がスカッとするような昭和の時代劇を。京都にはそれができる職人さんたちがいるのに、時代劇が作られないから技術も伝承されない。中国が三国志を世界に発信した映画「レッドクリフ」に参加させてもらって、つくづく役者として日本から世界に発信できる時代劇を作りたいなと思うようになりました。

ペリー 獅童さんご自身が歴史になるような活躍を期待してます。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

(二〇一五年七月二十二日、神楽坂 la kagu にて)

新潮社 波
2015年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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