【スペシャル対談】夢枕 獏×山村浩二 〈特集・子どもの本に学ぶ1〉

対談・鼎談

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ちいさな おおきな き

『ちいさな おおきな き』

著者
夢枕 獏 [著]/山村 浩二 [イラスト]
出版社
小学館
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784097265917
発売日
2015/07/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【スペシャル対談】夢枕 獏×山村浩二 〈特集・子どもの本に学ぶ1〉

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Photograph:Hisaaki Mihara

伝奇小説の大家と世界で活躍するアニメーション作家が、
今までにない大きな物語の絵本を生み出した。
記念すべき両氏の初顔合わせの日に、それぞれの制作秘話が明かされた。

シンプルで太い話が
今にも動き出しそうな絵本になった。

夢枕 今回、『ちいさなおおきなき』で、山村さんが描かれた絵を見て、いやぁ、すごいなぁと驚きました。

山村 こちらも、獏さんが書かれたテキストを読んで、これは大変だ、と思ったんです(笑)。始まりは小さな小さな芽だったものが、ぐんぐんのびて、大きな木となり、そこに生きものたちが住み始めて……というお話は、ミクロからマクロまで大きな広がりのある世界観でした。これは、いろいろなものを描きこまないと絵にならないだろうな、と。画家としては、テキストを超えたくて、なんとか著者の人をびっくりさせたいと思って挑みますから、そう言っていただけるとうれしいです。

夢枕 物語を通じて、アリの存在が見事ですよね。

山村 アリと木とが出会ってから、世界の大きさがどんどん変わっていくので、つねに小さなアリとの対比を出していかないと面白くないなと感じたんです。

夢枕 ほぼ、全ページにアリが登場しますよね。あ! 言ってしまうと探す楽しみを奪ってしまうかな?(笑)

山村 いえいえ、最初に言っておかないと見過ごしてしまわれるでしょう(笑)。木が大きく育って、そこにアリがやってきてからは、必ずページのどこかにいますので、ぜひ探していただきたいです。獏さんの文章はかなり音の印象が強いですよね。音楽的というか、リズムがある。

夢枕 最初のほうの「どうだ、どうだ、どうだ……」のところは、歌舞伎や文楽の台詞で同じ言葉を何度も違う言い方で繰り返すようなイメージです。『伽羅先代萩』という演目で、忠義のために子どもを死なせた母親が泣きながら「でかしゃった、でかしゃった、でかしゃった……」と、ひと言ひと言、言い回しを変えて発するのですが、この「どうだ、どうだ、どうだ……」も同様に言い回しを変えながら読んでいただきたいですね。僕は小説でも同じ言葉を繰り返すので、その癖が絵本でも出たんでしょうね。『餓狼伝』という小説では、格闘のシーンで「殴った。殴った。殴った。」と「殴った。」という言葉を四行続けて書いたこともありますよ。

山村 文字のビジュアルがリズムをつくってるんですね。視覚的な効果というか。原稿は手書きですか?

夢枕 はい。だから原稿用紙に書いたときの文字の強さや美しさを意識していますね。今回、山村さんが描かれた絵は、木が大きくなっていく様子や木の上に動物や人が住んでいる世界観が豊かで壮大ですよね。アニメーション作家でいらっしゃるから、その影響が大きいのかな。

山村 そうですね。一般的に絵本を専門で描いていらっしゃる画家の方は、平面的な誌面のレイアウトを意識して絵を描かれることが多いと思いますが、僕は絵本の中の世界を映像的に切り取って、絵にしています。頭の中にその世界があって、どこからカメラで写したら、いちばんいい表現ができるかな、というイメージです。

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『ちいさな おおきな き』より。小さな芽から育った大きな木に、ゾウやトラや龍、そして人が住み始める。

夢枕 なるほど。おもしろいですね。意外に思われるかもしれませんが、僕は、ずっと本気で絵本をつくりたいと思っていたんですよ。『八郎』という斎藤隆介さん作、滝平二郎さん画の絵本が好きで、実は、大学を卒業して、『八郎』の出版元である福音館書店の就職試験を受けたんです。落ちましたけど(笑)。でも、『八郎』みたいな、でっかい男が全力で世界を救うために何かをする、という、シンプルで太い話をずっとつくりたいと思っていて。

山村 僕は、あまり絵本の思い出というのがないんですよね。小学生のころは、楳図かずおさんと赤塚不二夫さんの漫画にハマりまして、怖いものと面白いもの、両極の刺激を受けて育ちました(笑)。読む本も落語か怖い怪談のどちらかでしたね。

夢枕 えっ、小学生で落語?

山村 児童向けの落語本や、興津要さんが編纂された『古典落語』という文庫本を十歳から読んでいました。学校で落語の笑い話とか怖い話をすると友達にウケるから覚えたかったんですよ(笑)。

夢枕 僕が一番読書をしたのは、中学生のときかな。中学三年間で千冊ぐらい読みました。学校の図書館で毎日二冊借りては翌日に二冊返して、さらに市立の図書館でも借りたり、買ったりして。『今昔物語』から相対性理論の本まで、とにかくなんでも読んだんです。南洋一郎や小松崎茂の冒険物語にもハマりました。子どもをドキドキさせてくれる作家たちがたくさんいたんですよね。ところで、今回の絵本の話に戻りますが、全部の絵が完成するまで、どれくらい時間がかかりましたか?

山村 ラフが決まってから、仕上げに三か月ぐらいかかりました。一枚ずつ仕上げていくのではなく、まず輪郭を全ページ起こして、最初のページから順番に、木の枝だったらずっと木の枝ばかりを、同じ部分に色をつけていく作業をするんです。流れや共通性を意識しながら。

夢枕 アニメーション的な手法なんですね。そうした話をうかがうと申し訳ないくらいですが、僕は、もう、あっと言う間に、時間にすると三十分くらいでダッダッと一気に物語を書きました。その後に、細々とした直しも入れたんだけど、思いついたら早いんです。

山村 思いつくまでの時間は測れないですからね。

夢枕 三十歳のときに大きな木の話は書いているんですよ。『涅槃の王』の一巻目『幻獣変化』という話です。インドのデカン高原に隕石が落ちて、クレーターができるのですが、その中にヒマラヤ山脈よりも高い木が生えて涅槃の果実という実がなる。クレーターの中は妖怪のような化け物の巣になっているのですが、シッダールタが涅槃の果実を求めて木を登り、悟りを開くという大冒険小説。『神々の山嶺』という小説を書いているころ、筆が進まない時期があってね。山ではなくて違うものに登ろうということで、大きな木に登る話を書いたわけです。

山村 数十年かけて今回の絵本につながるんですね。龍が出てくるところは、いかにも幻想的な小説を書かれる獏さんらしいなと思いました。

夢枕 龍の表情、すごくいい感じですよね。怖すぎず、ひょうきんさもあって。全体を通してリアルな部分とリアルではない部分の融合が本当に素晴らしい。

山村 ありがとうございます。トラやゾウが出てくるので、和風の龍だろうなと想像したんですが、顔は和風の龍だけれども、身体は翼がある洋風のドラゴンです。トラやゾウも現実の姿そのままではなくて、この本の世界の中の生き物に見えるように、現実の動物とは少しずつずらすように描いてみました。

夢枕 スケール感が大きいですよね。絵本の誌面の外にも世界があるのを感じるし、本当に動き出しそうな感じです。これはアニメーションでも、ぜひ見てみたいな。

山村 大変ですよ(笑)。ハリウッドのSFXを使ってリアルに表現した世界も見てみたい気もします。

夢枕 いいですねえ。物語が自分のイメージを超えていくのが面白いし、うれしいです。夢が膨らみますね(笑)。

(構成:高橋亜弥子)

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夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)
1951年神奈川県生まれ。東海大学文学部卒。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で吉川英治文学賞、泉鏡花文学賞、舟橋聖一賞を受賞。著書に『キマイラ』『陰陽師』シリーズを始め『大江戸恐龍伝』(全5巻・小学館刊)など多数。絵本に『おんみょうじ 鬼のおっぺけぽー』がある。

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山村浩二(やまむら・こうじ)
1964年、愛知県生まれ。東京造形大学絵画科卒業。短編アニメーションを多彩な技法で制作。アカデミー賞ノミネートの『頭山』と『カフカ 田舎医者』が国内外のグランプリ多数受賞。東京藝術大学大学院教授。絵本に『おやおや、おやさい』(文/石津ちひろ)、『雨ニモマケズ Rain Won’t』(文/宮沢賢治 英訳/アーサー・ビナード)など。

小学館 本の窓
2015年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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