【手帖】売れなかったら自分で…「気仙沼ニッティング物語」

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【手帖】売れなかったら自分で…「気仙沼ニッティング物語」

[レビュアー] 伊藤洋一(エコノミスト)

 東日本大震災の傷痕が残る地で高級カーディガンを手編みする会社を起業、初年度から黒字にした御手洗瑞子(みたらい・たまこ)さん(30)が、従業員や地元住民とのふれあいをつづった『気仙沼ニッティング物語 いいものを編む会社』(新潮社・1400円+税)を刊行。先月、東京・神楽坂のイベントスペースで開催されたトークショーでは、経営を軌道に乗せるための“ノルマ”の一端を明かした。

 コンサルタント会社勤務、ブータン政府の首相フェローを務めたあと、知人のコピーライター・糸井重里氏から社長就任を打診された御手洗さんは、「1着を編むのに50~60時間かかる。仕事に誇りを持ってもらうには、販売価格を安くできない」と、1着を15万円に設定。一方で、対価に見合うよう着やすい毛糸の開発から着手し、客が気づかないほど小さな間違いも「ほどいて編み直してもらいます」と妥協を排除した商品作りを心がける。

 そのかいあってか、「売れなかったら自分で買おうと思っていた」という心配は杞憂になり、現在100人以上がオーダー待ちで、手元に渡るまで約2年かかる人気ぶりに。当初4人だった編み手は30人を超えるまでになったという。「お客さんに喜んでもらえて、利益をあげて、自分のやりがいもあって、納税で街にも貢献できるのが仕事ということを教えてもらった」と御手洗さんは従業員に感謝する。

 本書では、地方都市と思われている宮城県気仙沼市が、遠洋漁業が盛んなため国際感覚を持ち合わせている市民が多いことなどを指摘。観光資源もあって、都会からの来訪者も多いと分析している。地方創生のヒントがつまった一冊だ。(伊藤洋一)

産経新聞
2015年11月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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