『超高速! 参勤交代 老中の逆襲』 著者・土橋章宏さんに聞く

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

超高速!参勤交代 老中の逆襲

『超高速!参勤交代 老中の逆襲』

著者
土橋 章宏 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062953092
発売日
2015/09/25
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『超高速! 参勤交代 老中の逆襲』 著者・土橋章宏さんに聞く

505313
土橋章宏(どばし・あきひろ)さん

――15万部を突破した『超高速!参勤交代』は佐々木蔵之介主演の映画も大ヒット。来年には続編の『超高速!参勤交代リターンズ』も公開されます。本書はその原作にあたる小説です。
土橋章宏(どばし・あきひろ)’69年大阪府生まれ。’11年シナリオ「超高速!参勤交代」で城戸賞受賞。’13年『超高速!参勤交代』で作家デビュー。同名映画で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。その他の小説に『ライツ・オン!』など

当初は続編を書く予定はありませんでした。ですが、ありがたいことに、昨年の映画公開中に、「続編が見たい」という声がかなりありました。「そんなに期待されているのなら」と、今作を書くことを決めたんです。

登場人物のキャラクターも好きでしたし、映画で佐々木さんや深田恭子さんをはじめとした俳優の方たちが演じられたことで、魅力が深まった。もう一回彼らに動いてもらいたいと思ったことも、続編を決めた理由です。

――前作では江戸から60里(約240km)ほど離れた磐城の湯長谷藩(福島県いわき市)が、悪徳老中の松平信祝に「5日以内に参勤せよ」と無理難題をふっかけられました。今回のストーリーはどのように?

参勤交代は「参勤」が行きで「交代」が帰り。前作では湯長谷藩の参勤が成功しただけで、交代はまだ終わってなかったんです。だったら、帰りの交代を書けばいいと考えました。

今作でも引き続き、敵役は松平信祝です。彼は一回くらいじゃくじけないでしょう(笑)。前回は湯長谷藩をなめていたところもありましたが、次は全力を出してくる。参勤を成功させたことで信祝を本気にさせてしまって、さらにひどい目に遭うという展開です。

――湯長谷藩主の内藤政醇は剣の腕も立ち、藩士たちの信望も厚い名君ですが、どこか抜けたところがある。閉所恐怖症という弱点も抱えているのがいっそう魅力的です。

政醇はあまり先のことを考えず、ただ本能に従って生きているんですが、真実は突いてくる。ドラマ『24』のジャック・バウアーをイメージした、明るくて腕っ節が強く、問題をガンガン解決していく人物。どんな危機も明るく乗り越える湯長谷藩のまさに象徴です。

もともと前作のアイデアは、東日本大震災が起きた2011年の夏、福島県に取材に行ったのがきっかけなんです。缶詰工場などの腐敗臭がすごくて、外に出られず、窓も開けられずにずっと車に乗っていました。しまいには僕自身が閉所恐怖症のようになってしまって。

その経験から、昔の殿様も参勤交代で長いこと駕籠に乗っていたら辛かっただろうなと思い、「参勤交代」や「閉所恐怖症の殿様」というアイデアが生まれました。

――今作には、時代劇でお馴染みの南町奉行・大岡越前も登場します。藩主の政醇や、松平信祝も実在した老中なんですね。

ええ。八代将軍吉宗の時代の、実在した人物を数多く登場させています。悪役として信祝を選んだのは、物語に制約なく動いてもらうために、この時代の老中の中でもあまり知られていない人にしようと思ったからです。

――信祝は前回以上にタイムリミットを早めた上、莫大な費用がかかる「江戸城天守閣の再建」まで命じようと企みます。

老中が諸藩の力を弱めようと考えた場合には、いろんなやり方があります。参勤交代もそうですが、もうひとつ藩にとって大変だったのが、幕府の命令で城や土木の工事を行わせる「手伝い普請」。実際には、湯長谷のような1万5000石の小藩にはさせなかったでしょうが、やろうと思えばやれたはずですし、資料を見ると薩摩藩などは大変な目に遭っています。

手伝い普請をいかに逃れるかというのが、各藩の江戸留守居役の難題だった。湯長谷藩の留守居役である秋山平吾は、無鉄砲な藩士が多いなか、ブレーキ役になる現実的な人物。彼が小太刀術の達人というのは、自分の力だけに頼らず、周りの物も上手に使って戦う小太刀術が、理論派の彼に最適だと考えたからです。

――信祝はある野望を持って尾張柳生家と手を組み、幕府要人たちを暗殺していきます。刺客集団である「尾張柳生七本槍」と湯長谷藩士たちの死闘の数々は、山田風太郎の『甲賀忍法帖』などを思わせます。

そういって頂けると嬉しいですね。僕は昔から山田風太郎さんが好きで、決闘シーンはそのオマージュでもあります。20~30代にかけて、時代小説をたくさん読みました。池波正太郎さんから入って、隆慶一郎さんや北方謙三さんが好きでした。『影の軍団』などの時代劇も観ていたので、柳生一族は絶対出したかったんです。

――家老の相馬兼続が海に突き落とされる場面など、スラップスティックなギャグも多いですね。

映画で相馬を演じた西村雅彦さんや、槍の名人・今村清右衛門役の六角精児さんの演技がコミカルで面白かったので、その影響を受けて、前作よりコミカルになっているかもしれません。相馬が舟から落とされる場面は、西村さんの映像を想定して書きました。

ちなみに政醇だけではなく、今村や一番年下の藩士・鈴木吉之丞も、湯長谷藩に実在した家臣なんです。「弓の鈴木」など、記録が残っています。

――前作同様、とても明るくて読後感もさわやか。今までにない新しい時代小説だと感じました。今後はどんな作品を書いていきたいですか。

これからも、コメディ色の強い、楽しくて明るい小説を書いていきたいですね。今まで時代小説を中心に書いてきましたが、次作は初めての現代小説です。介護をテーマにしながら、エンタメ系で明るく乗り切っていく物語です。

土橋章宏(どばし・あきひろ)
’69年大阪府生まれ。’11年シナリオ「超高速!参勤交代」で城戸賞受賞。’13年『超高速!参勤交代』で作家デビュー。同名映画で日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。その他の小説に『ライツ・オン!』など

取材・文/伊藤和弘

講談社 週刊現代
2015年11月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

講談社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク