心の成長に寄りそってくれる物語たち

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  • ミッキーときょじん : A Walt Disney Beginning Reader
  • プーさんとおたんじょうかい : A Walt Disney Beginning Reader
  • ドナルドとおばあちゃん : A Walt Disney Beginning Reader
  • グーフィーのカーレース : A Walt Disney Beginning Reader
  • とんすけといもうとたち : A Walt Disney Beginning Reader

書籍情報:openBD

心の成長に寄りそってくれる物語たち

[レビュアー] 姫川明月(漫画家・作家)

 ディズニー絵本というとアニメや映画の内容をそのまま絵本化したものがほとんどだと思いますが、こちらはちょっと違います。主人公はおなじみのキャラクターたちですが、ストーリーはこのためのオリジナル、絵もすべて手描きの描き下ろし。一九八〇年代にアメリカで刊行されヒットした、名作絵本の貴重な翻訳版です。ペンと絵の具、パステルなどで田舎の日常風景が生き生きしたキャラクターとともに描かれています。伸びやかな描線と目に優しい素朴な色たち。それがなんとも温かみのある風合いで、本を開いただけでほっこりした気持ちにさせてくれます。ディズニーファンでも、もちろんそうでなくても、ディズニー作品の入り口として楽しめます。

 お話は絵本としては結構な尺に起承転結があって、めくる度に「この先は一体どうなるの? 最後はどういうオチが待ってるんだろう?」とちょっとハラハラもする展開。のんびりした作風でありながら、読者を飽きさせず、そして結末はイソップ的な道徳や教訓を思わせるもの、ピンチの後のハッピーエンドなど、バラエティに富んでいます。大人ゴコロもくすぐる人生のアレやコレやのお話。読み終わってから子どもと色々と会話がふくらみそうで、読み聞かせにはぴったりです。

『ミッキーときょじん』は、木こりのミッキーが、町をめちゃくちゃにする困り者の巨人をなんとか追いだそうとするお話。「そんなの無理! できっこないよ」と町の人たちにばかにされるけど、知恵をしぼった意外な作戦で見事に成功。スカッとする読後感です。

『プーさんとおたんじょうかい』は、自分の誕生日がわからなくて、しょんぼりしているイーヨーを見て、プーさんがサプライズパーティーを計画。みんなが自分の大切なものをイーヨーと〝わけっこ〟しようとする姿には、思わずじーんとします。でもいいお話っていうだけじゃなくて、ちょっと笑える要素もあるのがイーヨーらしく、哀愁と味があってとても素敵です。

『ドナルドとおばあちゃん』では、ズルいことばっかり考えてあの手この手で仕事を怠けようとするドナルドが本当に面白い。おばあちゃんも負けていなくて、果たして最後にはどれだけお灸を据えられるのかしらと心配したけど、そこは「クスッ」とさせてくれる安心のディズニーです。

『グーフィーのカーレース』では、古くてぼこぼこなグーフィーの愛車ベッシーと、新しくてかっこいいドナルドの車が競走することに。ドナルドはグーフィーを完全になめてかかって道草ばかり。一方のグーフィーはベッシーを信じてマイペースにこつこつ。果たしてレースの行方は? 道中が楽しく結末が気になるお話です。繰り返し出てくるフレーズがあるので、お子さんと一緒に歌をうたうように抑揚をつけて読んでも楽しそう。車のお話は男の子が喜びそうですね。

『とんすけといもうとたち』は、三匹の妹たちが生まれてからお母さんとお父さんはぼくのこと忘れちゃったみたい、と寂しがるとんすけが主人公。家にいるとしかられてばかり。でも妹たちはお兄ちゃんに遊んでほしくて……。面白くないとんすけ君。犬におそわれそうになり、妹を守ろうとして犬の前に飛びだし、ピンチが! いじらしいとんすけがひたすら可愛いです。生き生き跳ねまわる彼らを眺めているだけで幸せ。たくさんの子どもに、見て、読んでもらいたいなあ。

 印象に残るのは主人公がどれも〝いい子〟じゃないこと。うっかりもするし、見栄も張るし、面倒くさいからズルいことも考えちゃう。で、「しまった」って思う。どうすればいいの? どうしよう? でも、最後には……? さてどうなるのかは、最後まで読んだらわかるご褒美なのです。

 このシリーズの底に流れているのは、いけないことはさとしながらも責めたりしない、優しく子どもたちを見守る〝寛容な愛ある視点〟ではないでしょうか。そのおおらかさに、自分が子どもの頃に読み聞かせてもらった民話絵本のような懐かしさも感じます。

 心の成長過程に寄りそってくれる、大人になってもそばに置いて読み返したい宝物のような絵本となるに違いない五冊。ぜひ手に取って楽しんでみて下さい。

KADOKAWA 本の旅人
2015年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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