のろい男 俳優・亀岡拓次 [著]戌井昭人

レビュー

7
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のろい男 俳優・亀岡拓次

『のろい男 俳優・亀岡拓次』

著者
戌井 昭人 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163903590
発売日
2015/11/14
価格
1,458円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

のろい男 俳優・亀岡拓次 [著]戌井昭人

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

〈年齢は三十七歳で、見た目よりも十歳くらい老けて見える。髪の毛は天然パーマで頭部が少し薄くなっている〉脇役俳優の、ロケ先での行状が描かれているだけなのにめっぽう面白い連作短篇集が、来年一月三十日から映画公開も決まっている戌井昭人の『俳優・亀岡拓次』。『のろい男』はその続篇だ。

 亀岡もついに四十歳。女性関係には恵まれず、安アパートでの侘びしい一人暮らしは変わりないものの、一年のほとんどをどこかの撮影現場に呼ばれるバイプレイヤーとしての耀きはいや増している。

 特殊メイク無しで落武者を演じれば、映画評論家から「はじめて本物の落武者と遭遇したようだ」と評され、恐怖から失禁する殺し屋を演じた時には、水が出てくる仕掛けが作動せず、とっさの判断から本当に小便を垂れ流す。河豚を踏んですっ転ぶ間抜けの役では、本気で転んで頭を強打。ポルトガルの監督に呼ばれて檀一雄役を振られ、アドリブで独白せよと演出されれば、大量のワインでべろんべろんに酔っぱらいながら本音を吐き、ベネチア映画祭でその演技が高く評価される。

 いい感じにうらぶれていて、昭和の雰囲気をひきずった亀岡がロケに行った先々で出会う人たちもユニークきわまりない。特に「アイナメ」に出てくる伊東の防波堤で出会う港町の住民のキャラクターの濃さは奇人変人レベル。この一篇を笑わずに読み通せる人がいたらお目にかかりたいものだ。また、収録六篇それぞれに亀岡が出演することになっている映画の粗筋が載っているのだが、それがまた「本当にあったら絶対観る!」というくらい面白いのだ。

 そうしたあれこれを描く作者の、哀愁と笑いを絶妙のバランスでブレンドした筆致も、亀岡拓次が存在する世界にぴったりマッチ。読めば好きにならずにいられない。映画を観る前に、一足早く亀岡の魅力に取りこまれちゃってください。

新潮社 週刊新潮
2015年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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