芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム [著]塚田稔

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芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム

『芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム』

著者
塚田 稔 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784062579452
発売日
2015/11/20
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム [著]塚田稔

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 ピカソやゴッホの絵画を見ると、ものの形や質感の表しかたが独特で、異様に感じられる。だが、「これらの画家は眼の構造そのものが常人と違う」と考える人はあまりいない。それはものをどう判断し価値づけるかという、「こころ」の領域の問題なのである。

 だからこそ、「科学」と「芸術」は互いに遠い分野だと思われてきた。科学が解明できるのは眼の構造や、そこで得た情報が脳で処理される回路などであり、芸術家の「独特な表現」には手が届かない。

 しかし、一般に困難とされている場所にこそ、学問的なおもしろさも実りもあるものだ。この本は、ピカソやゴッホの脳内に分け入る試み。脳科学の研究者であり、同時に画家でもある著者が、絵を描くとき・見るときに脳で起きているプロセスを解き明かす。

 学習や記憶といった脳のはたらき、右脳と左脳の機能分担と連携のしかたなど、どの局面を見ても、脳は創造性に満ちている。外界から得た情報はただ機械的に処理されるのではなく、自分にとっての価値判断をもとに柔軟に活用され、自ら発信する「情報創成」がおこなわれる。そして、外界からの情報と自ら創成した情報は干渉しあい、さらなる創造へと進んでいく。

 人間の脳は非常に可塑性に富み、世界的な画家たちの「芸術脳」も生まれつきのものではない。自分の脳を今後どう育てていくのか、イメージがひろがる。

新潮社 週刊新潮
2015年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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