[本の森 医療・介護]『ドクター・ホワイト』樹林伸/『虚栄』久坂部羊

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ドクター・ホワイト

『ドクター・ホワイト』

著者
樹林伸 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041034637
発売日
2015/10/30
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

虚栄

『虚栄』

著者
久坂部 羊 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041019948
発売日
2015/09/29
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ドクター・ホワイト』樹林伸/『虚栄』久坂部羊

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 医師たちは患者の病気が何であるかを見極めるために全力を尽くしているはずだ。だが誤診のニュースは後を絶たない。もし、神のごとく診断が下せる人間がいたら、患者はどんなに安心だろう。

 樹林伸『ドクター・ホワイト』(角川書店)はそんな診断の天才を描いた小説である。

 編集者の狩岡将貴は早朝の井の頭公園で、素裸で白衣だけを纏った少女を発見する。「白夜」という名前だけ告げ、素性は全く明かさない。どうやらどこかに監禁されていたところを誰かに助け出されたらしい。あることから、白夜は病気の原因と診断に関してシャーロック・ホームズの様に言い当てられることが判明した。

 経営破綻寸前の高森総合病院の院長の娘、内科医の麻里亜は、その能力を認め診断協議チーム「DCT」を立ち上げた。白夜は自分の持つ知識で緻密な推理を組み立て、病気が何かを見極めて患者の命を救っていく。

 高森病院の跡取りになるはずだった長男・勇気の失踪の謎と白夜とは何らかの関係があるらしい。彼女を監禁し、この能力を身につけさせた理由とは何なのか。

『金田一少年の事件簿』など大ヒットマンガの原作者でもある著者だけに、物語は波乱万丈で息つく暇がない。どうやらこの本はプロローグ。続きが待ち遠しい。

 第3回日本医療小説大賞受賞者の久坂部羊はノリに乗っている。2015年後半、『破裂』と『無痛』2作がドラマ化され話題である。

 新刊『虚栄』(角川書店)もまたこれぞ医療小説! という作品となった。大学病院を舞台に政治的駆け引きや名誉の奪い合い、医師としての優越感も劣等感も矜持も倫理観も、すべて合わさった大胆な設定の重厚な作品である。

 201×年、様々な著名人が立て続けにがんで亡くなった。全員、健康診断を真面目に受けていたにもかかわらず、数ヶ月という早さで死亡していた。凶悪化したがん対策のため、政府は外科、内科、放射線科、免疫療法科のトップに立つ医科大学の医師たちを招集した。彼らは治療法を確立するため鎬を削ることになる。

 手術で患部を切り取ってしまうか、抗がん剤治療でがんを叩くか、放射線によって患部を粛清するか、新しい治療法である免疫療法を推進するか。ほかの大学より一歩でも先んじようと新しい研究に没頭する。

 成功する者もあれば転落していく者もいる。物語を構成するエピソードはここ数年にニュースとなった治療法や科学関係の事故、論文のねつ造などを彷彿とさせる。医師ではない一般の人には知りえない裏の駆け引きに「そうだったのか」と驚かされる。小説だとわかっていても戦慄を覚えるほどリアルだ。凶悪化したがんの正体は何なのか。医師たちは治療することができるのか。手に汗握る展開を楽しんでほしい。

新潮社 小説新潮
2015年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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