『「歌」の精神史』
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「歌」の精神史 [著]山折哲雄
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
日本人にとっての「心の歌」。それはかつて、涙の似合う演歌や、背負われて聴く子守歌だった。しかし現在、もの悲しい歌はすっかり衰微し、生活のあらゆる場面から短調のメロディーが消えた。日本の詩歌の伝統であった「叙情」もまた、危機に瀕している。
こうした状況への危機感から、日本人の情緒を検証しなおすのが本書だ。美空ひばりと尾崎豊のあいだにはどんな断絶があるのか。俵万智『サラダ記念日』は日本人の伝統的な感受性をどのように受け継ぎ、その一方で何を革新したのか。『平家物語』や親鸞の和讃、童謡なども視野に、「日本的な歌のしらべ」の変遷をたどる労作。