毛沢東 日本軍と共謀した男 [著]遠藤誉

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毛沢東

『毛沢東』

著者
遠藤 誉 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784106106422
発売日
2015/11/16
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

毛沢東 日本軍と共謀した男 [著]遠藤誉

[レビュアー] 伊藤洋一(エコノミスト)

 覚えている人も少ないだろう。1990年代半ばまでの中国の1元紙幣は異なる少数民族の女性二人が肖像だった。共に目線は優しいがしっかりとし、口元もきりっとしている。この1元紙幣は中国の多様性の数少ない証だった。しかし90年代後半に消えた。共産党の「統治の正統性」への疑念の高まりと同時に毛崇拝傾向が強まり、1元紙幣の肖像も毛沢東になった。今や中国の全紙幣の肖像は毛沢東だ。

 では彼はどのような人物だったのか。「毛沢東 日本軍と共謀した男」は、中国の“肖像”の真実の姿を活写し、読者を虜にする。何故知識人をあれほど苦しめたのか。心底憎かったのだ。副題もそうだがドキドキする記述が次々に登場する。「敵(日本軍)を倒すのではなく中華民族を殺し、特に革命に貢献した共産党員の仲間たちをつぎつぎに処刑して自らの突出した権威を維持していこうとする手法は、彼の生涯を通して一貫している」と。歴史は繰り返している。

 驚嘆することがいくつもある。「もし」は歴史を語るときに禁句だが、隣国が今の迷惑な体制で存在するのは偶然の重なりなのだ。そして「歴史の嘘」に唖然とする。パラドックスの連続だ。それにしても書き手その人に説得力がある。中国で生まれ長春包囲戦(国共内戦を決した)を経験した著者。中国研究の第一人者だからこそ書けた本だ。より多くの中国人に勧めたい。

新潮社 週刊新潮
2015年12月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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