『岩崎航エッセイ集 日付の大きいカレンダー』 岩崎航著

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日付の大きいカレンダー : 岩崎航エッセイ集

『日付の大きいカレンダー : 岩崎航エッセイ集』

著者
岩崎 航 [著]
出版社
ナナロク社
ISBN
9784904292631
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『岩崎航エッセイ集 日付の大きいカレンダー』 岩崎航著

[レビュアー] 若松英輔(批評家)

生を切り拓く言葉

 第一詩集『点滴ポール』の衝撃は鮮烈だった。そこに刻まれていたのは、同時代の詩人の誰よりも素朴で、しかし力強い、ときに光を放っているようにすら感じられる言葉だった。

 作者は、三歳のときに進行性の筋ジストロフィーを発症し、身体を自由に動かすことは著しく制限される。十七歳のときには自殺も考えたが、「もう一度、死にものぐるいで生きてみよう」と思う。その後も道は、けっして平坦(へいたん)ではなかったが、様々な葛藤を経ながら、ある日、彼は詩を書き始める。そして次のような五行歌という形式に出会ったとき、世界が変わった。

<誰もがある いのちの奥底の 燠火(おきび)は吹き消せない 消えたと思うのは こころの 錯覚>

 「燠火」とは静かに燃える炭火のこと。いのちの火は、私たちが絶望を感じているときでも見えないところで燃え続けているというのである。本書は、作者の最初のエッセイ集である。彼にとって詩と散文は、詩情を宿す二つの異なる様式に過ぎない。「生きることと、詩は一体のものです」と書かれているように、読者は、どのページを開いても、読み手のいのちに直接語りかける言葉に出会うことができる。岩崎は自らの詩の源泉にふれ、こう書いている。

 「まぎれもなく魂の底から思ったこと、感じたことには光が宿されているのではないでしょうか。それは見えないところで自分や他者の命をも揺り動かして、絶望に射すくめられていた人生をも回転させていく動力になっていくのではないかと思います」。詩は、人生の闇を打ち破る力を持つ。詩は、世にいう詩人によってのみ書かれるのでない。心の奥にある思いを、真摯(しんし)に紡ぎ出すことができれば、その言葉は、自(おの)ずと詩になる。万人の内にはすでに困難を切り拓(ひら)く言葉が眠っている。

 ◇いわさき・わたる=1976年、仙台市生まれ。25歳から詩を書き始め、2004年秋から五行歌を詠む。

 ナナロク社 1500円

読売新聞
2015年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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