『日本陸軍とモンゴル』 楊海英著

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『日本陸軍とモンゴル』 楊海英著

[レビュアー] 松木武彦(考古学者・国立歴史民俗博物館教授)

 モンゴルといえば大相撲、というのが近年のイメージか。だがその歴史、ことに戦前や戦中におけるモンゴルと日本との関わりについて語られることは比較的少ない。

 旧満州国に日本が設立した興安軍官学校。独立を目ざすモンゴルと、大陸の権益確保を図る日本の思惑が交錯するところにできたモンゴル人のための軍事教育施設である。ここに集ったモンゴル人たちの夢と失望、その後の運命をたどって、独立と挫折のモンゴル近代史の一幕を描いた。

 この学校の創設に関わったジョンジョールジャブの生涯は叙述の軸だ。どこか横綱の白鵬を思わせる風貌のこの青年は、モンゴルの名門に生まれ、日本の陸軍士官学校を出て軍歴を積むが、終戦寸前に反旗を翻し、日本軍人を処刑してソ連に投降。のち中国に送られ、文化大革命の中で自ら命を絶った。モンゴルの統一の夢は果たされぬまま。

 厳しい内容の歴史叙述のはずなのに不思議と重苦しくない。民族の存亡にかかわるたびにモンゴル人たちが愛唱したという「チンギス・ハーン遠征歌」が、大草原の風に乗って聞こえてくるようだ。(中公新書、840円)

読売新聞
2015年12月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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