川本三郎「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2015-16

レビュー

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  • 颶風の王
  • 緑と赤
  • シリーズ紙礫2 街娼 パンパン&オンリー
  • 時のながめ
  • 日影丈吉傑作館

書籍情報:版元ドットコム

川本三郎「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2015-16

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

 まず女性作家の力作を二冊紹介したい。

 河﨑秋子『颶風(ぐふう)の王』は北海道の厳しい大地から生まれた力作。

 北海道の開拓は馬(道産子(どさんこ))の力なしにはありえなかった。その馬と共に生きてきた一家の物語。

 新人作家で文章は荒削りだが、このことを書きたいという熱い思いがある。

 在日の人たちの生きる困難を、日常の言葉で柔らかく書き続けている深沢潮の新作『緑と赤』も、同じように感動作。

「ヘイトスピーチ」の野蛮さに在日の人たちがどれだけ傷ついているか。それに抗がって生きようとする女性たちの懸命な姿に心打たれる。取り澄ました小説が多いなか、この二冊にはいい意味の熱がある。

『街娼』は意表を突くアンソロジー。終戦後、米兵相手に身体を売って生きるしかなかったいわゆるパンパン、あるいはオンリーを描く小説を集めている。

 編者は、なるべく広く知られていない小説を優先したという。ベトナム戦争時代の沖縄基地周辺で生きる娼婦の図太さ、たくましさを男の目からとらえた長堂英吉「ランタナの花の咲く頃に」は出色。

 まさに身を削って生きている基地の女の迫力に圧倒される。

 同じ編者による前著『闇市』と併せて読みたい。闇市といい街娼といい、裏通りから見た、もうひとつの戦後史になっている。

 昭和七年生まれの作家によるエッセイ『時のながめ』は老いの日々が静かに語られる。若くして自裁した母親や、故郷、秋田県の角館のことが懐しく思い出される。そして次々に去ってゆく同世代の作家たち。

 短い淡々とした文章だが心に届く重みがある。

 日影丈吉はかつて澁澤龍彥や種村季弘に評価された作家。『傑作館』は幻想色の強い作品が選ばれている。

新潮社 週刊新潮
2015年12月31日・2016年1月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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