『ラーメンの語られざる歴史』 ジョージ・ソルト著

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ラーメンの語られざる歴史

『ラーメンの語られざる歴史』

著者
ジョージ・ソルト [著]/野下祥子 [訳]
出版社
国書刊行会
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784336059406
発売日
2015/09/28
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ラーメンの語られざる歴史』 ジョージ・ソルト著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

文化をのぞき見る窓

 ラーメンと聞いて、映画好きなら伊丹十三監督「タンポポ」はすぐに思いつく。しかし、本書の著者は、小津安二郎監督の戦前の作品に庶民性の記号としてのラーメンを発見し、最近の米インディペンデント映画にまでたどり着く。

 映画との関係だけではない。支那そば、中華そば、ラーメンという呼称の変遷も、帝国主義から敗戦国、高度成長による自信とナショナリズムの回復といった、国際社会の中の日本の立場とアイデンティティの関係性を示している。

 さらに、経済的な観点も盛り込まれている。あまり知られていないが、占領期の米軍による食料の提供は有償であり、栄養学者まで動員して小麦粉(パンやラーメンの原料)の消費が奨励された。また、ラーメン、とりわけインスタント・ラーメンは労働者や独身男性にとって手軽な食事となり、高度成長を支えたのである。

 21世紀に入ると、ラーメンは海外で「クール・ジャパン」の象徴となり、やがては日本を越えて汎アジア的な色彩を帯びてくる。「ラーメンの物語に一貫して流れているものがあるとしたら、これが矛盾した食べ物だということだ。ラーメンは西洋が近代性、東洋が後進性を表していた時代に、日本で中国生まれの現代的な食べ物として生を受けた」「ラーメンは起源は中国だが、原料はアメリカで、象徴性ということでは日本なのだ」と、著者は喝破している。

 本書は身近な食べ物を縦横無尽かつ学際的に論じている。そこには、国だけでなく階級や性、年齢、民族性といった様々なレベルが包含されている。本書は決して単なるオタク本ではないが、ラーメン本やラーメン・ブームまで射程に収めている。ラーメンは「文化を形づくるプロセスをのぞき見る窓なのだ」と、著者は言う。

 おまけに本書を読むと、ラーメンの香りまでしてきて食欲を刺激する。この間、どれほどラーメンを食べただろう。本書が紹介する新横浜ラーメン博物館もぜひ訪ねてみたい。野下祥子訳。

 ◇George Solt=米ニューヨーク大准教授。専門は東アジア、現代日本の政治経済、食物史など。

 国書刊行会 2200円

読売新聞
2016年1月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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