【聞きたい。】山本陽子さん 『図像学入門 疑問符で読む日本美術』
[文] 渋沢和彦
■特に感動しなくてもいい
「せっかく美術館で美術鑑賞をしても、面白くないと感じてしまうのは、よくあること。それは感動を求めて見ているからです。たとえば仏像は美術作品として作られたわけではないですから、特に感動しなくてもいい。不思議さを感じるとか、疑問に思うだけでもいいのです」
日本中世絵画史の専門家は、肩肘張らずに美術を鑑賞することを提唱する。本のタイトルとなっている「図像学」というのは、絵画や彫刻などにみられる美術的表現の含意や由来などを研究する学問のこと。
「描かれた絵柄の意味やそれにまつわる歴史を知っていれば、千年前の作品でも身近に感じられます」
タイトルは堅いが、中身は読みやすい。日本美術をさまざまな視点からとらえ、いまの流行を織り込みながらやさしく説明している。たとえば茶屋の看板娘らを描いた喜多川歌麿の美人画を「会いに行けるアイドル」と記す。「写真集が出れば買いに行き、コンサートにも行くようなAKB48と同じ感覚ではないでしょうか」
水墨山水画は「元祖3D風景画」、京都・神護寺の釈迦如来像は「美しすぎる釈迦像」と呼ぶなど、なるほど、と思わせる言葉で読者を引きつける。
日本美術史を大学で教えている。「講義でも、アイドルを登場させたりしていますよ。そうしないとみな寝てしまうので(笑)」。そんな“苦心”が本書にも生かされたわけだ。
日本美術の中で最も好きな作品は「鳥獣人物戯画」だという。「作者など分からないことだらけですが、戯れ絵の一コマ一コマが愉快。面白がってみるのが一番ですね」
絵画鑑賞は理屈抜きに楽しめばいい。「ただ作品の背景を知っていれば、より興味が深まる。この本は専門家だけでなく、美術をあまり知らない人にも読んでほしいですね」(勉誠出版・1800円+税)
渋沢和彦
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【プロフィル】山本陽子
やまもと・ようこ 昭和30年、東京生まれ。早稲田大学大学院修了。明星大学人文学部教授。著書に『絵巻における神と天皇の表現 見えぬように描く』など。