『21世紀の不平等』 アンソニー・B・アトキンソン著

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21世紀の不平等

『21世紀の不平等』

著者
アンソニー・B・アトキンソン [著]/山形 浩生 [訳]/森本 正史 [訳]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492314708
発売日
2015/12/11
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『21世紀の不平等』 アンソニー・B・アトキンソン著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

改革への信念と楽観

 不平等問題では、昨年ピケティの『21世紀の資本』が話題になったが、本書の著者のほうがはるかに大家。

 帯にも「ピケティの師」と紹介されている著者が、一般向けに書いたこの力作は、今後長く読み継がれることになるだろう。

 不平等とは何か、どこが問題なのかという根本的な問いかけから始まって、なぜ生じているのか、どのような処方箋が必要なのかが、厳密に検討されていく。たとえて言えば凝った推理小説のように。誠実に一つ一つの問題に対処する姿勢には著者の人柄がにじみ出ている。

 例えば近年、コンピュータの発展やグローバル化が、多くの人の仕事を奪うという論調が多い。しかし著者は、この予測に疑問を投げかけ、もっと多様な可能性があり得ることを、いろいろな角度から説得的に説明している。

 訳者はしがきでも書かれているように、ピケティが単純化した一つの式で一つの処方箋を押し出したのに対して、本書では累進的な固定資産税など15もの提案と五つの検討すべきアイディアが述べられている。

 それは著者が、この問題の根深さ、複雑さを熟知しているからだろう。様々な局面で改革をしていかないと不平等は改善していかないと認識したうえで、具体的提案を行っている。

 これらは政府に対してだけ向けられているのではなく、働いている一人ひとりに向けての著者からのメッセージであり、提案だ。

 平等を重視すると、パイが縮小し経済の停滞を招くのではないかとしばしば言われるが、著者はこの点を否定し、不平等を是正することが、経済の活性化につながる面があると主張する。このメッセージを浸透させることが、実はどんな提案よりも効果のある対策ではなかろうか。

 本書からにじみ出てくるのは、改革への強い信念と、きっと変えられるという楽観だ。これらは、日本の我々一人ひとりに、強く求められる姿勢かもしれない。山形浩生、森本正史訳。

 ◇Anthony B. Atkinson=オックスフォード大ナフィールドカレッジ元学長。所得分配論の第一人者。

 東洋経済新報社 3600円

読売新聞
2016年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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