『思想家としての石橋湛山』 山口正著

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思想家としての石橋湛山

『思想家としての石橋湛山』

著者
山口 正 [著]
出版社
春風社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784861104725
発売日
2015/12/11
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『思想家としての石橋湛山』 山口正著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

日本が誇る哲人政治家

 思想家、いや哲学者と銘打てる政治家を、日本は何人生んだのだろう。戦前ジャーナリスト、エコノミストとして活躍し、戦後に蔵相や首相などを歴任した石橋湛山は、不屈の言論人、自由主義者として、日本近現代史や経済思想史で注目されてきた。だが、その根底には生きた「思想家」の姿がある。石橋が主幹を務めた東洋経済新報社で湛山全集編集に携わってきた著者は、資料や研究文献を渉猟し、専門研究とは異なる俯瞰(ふかん)的な視野からこの人物と時代を描き出す。

 石橋はプラグマティズムの哲学者田中王堂から、生きた市民的政治思想を学ぶ。生活と芸術・理念の一致を説き、ケインズの経済哲学から現実を見る目を培い、科学精神に基づいてつねに日本と世界に対して的確な言論を発しつづける。同時代にくり広げられた「近代の超克」や「世界史の哲学」などの空疎な観念論とは対照的に、彼の「小日本主義」や自由経済思想は日本が歩むべき正しい方向を示していた。明確な論理で説明し、その理論を実践して生きる姿は哲学者そのものである。著者は、石橋と彼をめぐる人々を多角的に検討しながら、その魅力的な生き様を浮かび上がらせる。

 大正デモクラシーで流行していた「哲人政治」論に異を唱え、善政であれば誰が政治を担っても構わないという論理の危険性を指摘しつつ「民主政治」と言論の自由を貫いた希有(けう)な思想家は、日本が誇る哲人政治家となった。本書はそれが「新哲学の樹立につとめ」政治家になるという若き日の信念の実現であり、「哲学的日本を建設すべし」との主張を貫いた人生であったことを示す。

 混迷する政治状況のなか、何が本当に正しいか、善き政治とは何かが問われている。言論の自由が試される中、石橋の硬質な言論のもつ哲学的論理が、改めて新鮮な印象を与える。船橋洋一編『湛山読本』(東洋経済新報社)に収められた珠玉の社説も併せて味読したい。

 ◇やまぐち・ただし=1933年、鳥取県生まれ。東洋経済新報社を経て、石橋湛山記念財団評議員。

 春風社 3000円

読売新聞
2016年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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