『万国博覧会と人間の歴史』 佐野真由子編

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万国博覧会と人間の歴史

『万国博覧会と人間の歴史』

著者
佐野 真由子 [編集]
出版社
思文閣出版
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784784218196
発売日
2015/10/14
価格
9,936円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『万国博覧会と人間の歴史』 佐野真由子編

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

祭りの雑味と知的純化

 万博といえば、どこか期待と好奇心にくすぐられる思いがする。そんな時代が19世紀から21世紀の上海万博までは確かにあった。本書は、国際日本文化研究センターでの研究成果として、万博を含めた「博覧会」の歴史をたどる。多数の執筆陣が寄稿する分厚い専門書のようだが、図版の豊富な各章をのぞくと、さながらパビリオンからパビリオンへと歩き回っているような楽しい気分になる。江戸時代のイギリス公使オールコックは万博に日本を紹介しようと熱心だった。また1900年パリ万博の記憶に密(ひそ)かにこだわり続けた画家藤田嗣治からは、歴史に翻弄された芸術家の心のひだを垣間見る。

 さらに本書は、博覧会の運営側にも目を配る。ランカイ屋と呼ばれた博覧会装飾業の多様さには数多くの博覧会の足跡を見ることができるし、「女看守」と名付けられた今でいう女性コンパニオンの役割を再検討する章からは、何とも艶やかな香がたちのぼる。イベントプロデューサーによるつくば科学博から愛知愛・地球博までの博覧会行政の変遷を通して、企画から開催までの全体像が見えてくる。電化が進めば会場はどこまでも明るくなり、エコロジーが叫ばれれば、市民参画による環境との調和を図る仕掛けも組み入れる。なるほど、博覧会のお祭りさながらの雰囲気を会場で感じ取れるのは、走り回る裏方にこちらも活気づけられ、一つ一つ催しを見ていったからだと気づく。

 だからこそ「人間の歴史」という表題も、かみ砕けば砕くほど味わい深い。19世紀のパリ万博はあらゆる面での人間社会の到達点を示す「万有性」を理念とした。西洋に偏した19世紀的な見方だが、大阪万博であれ、上海万博であれ、洋の東西を問わずそこには実に雑多な人々がやってきた。集いの場に漂う人間くささ。その雑味をそぎ落とさず、知的対象に純化しようとする執筆陣の意思がこの言葉にこめられている。これぞ博覧会本来のありようなのだ。

 ◇さの・まゆこ=1969年生まれ。国際日本文化研究センター准教授。著書に『オールコックの江戸』。

 思文閣出版9200円

読売新聞
2016年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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