『天平の女帝 孝謙称徳』 玉岡かおる著

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天平の女帝 孝謙称徳

『天平の女帝 孝謙称徳』

著者
玉岡 かおる [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103737155
発売日
2015/11/27
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『天平の女帝 孝謙称徳』 玉岡かおる著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

女帝の目指した生き方

 7世紀に大唐世界帝国が成立し、最初の30年を太宗(李世民)が牽引(けんいん)、その後の半世紀を英邁(えいまい)な女帝・武則天が引き継いだ。武則天の時代に白村江の戦いが行われ高句麗が滅び、朝鮮半島は新羅によって統一され、わが国には激震が走った。そして、持統、元明、元正、孝謙称徳と女帝の世紀が出現した。武則天の活躍が彼女たちのロールモデルとなったであろうことは想像に難くない。本書は天武・持統につながる最後の女帝、孝謙称徳の生き様を描いた小説だ。

 冒頭、女帝最期の夢が語られ、崩御が吉備命婦(きびのみょうぶ)(由利)によって告げられる。本書は和気広虫や由利ら女官の目を通して、女性の地位向上に尽くした女帝の真の姿を詳(つまび)らかにする。回想の間にも藤原4家を中心に陰謀が入り乱れて政治は動き、天智系のむささびの帝(光仁)が擁立され、女帝の姉、井上内親王が皇后となる。

 しかし陰謀はとどまるところを知らず、皇后と他戸(おさべ)皇太子は廃され、異国の血筋の山部親王(桓武)が立てられる。一方、女帝の死に顔に青黒い斑点を認めた由利はその正体を追い続ける。唐渡りの毒草、緑蛇草に違いない、と。だが、どのような方法で女帝に毒を盛ったのか。毒見役の由利が目を光らせていたはずなのに。この辺りの謎解きはスリラー小説のようだ。

 そして道鏡、藤原良継ら要人が次々と倒れていく。それぞれ青い斑点を死に顔に浮かせて。最後に女帝の遺詔が明らかにされる。女帝は誰を指名したのか、驚く人が多いだろう。脇役の女性も巫女(みこ)の蛍女(ほたるめ)、井真成(いのまなり)の孫娘など多彩だ。

 勝浦令子著『孝謙・称徳天皇』(ミネルヴァ書房)という優れた評伝があるが、本書は、小説ならではの、権力と共に生きた女性の生身の人生を描き尽くす。奈良の大仏に象徴される天平時代の見方が変わるだろう。ヒラリー・クリントンが“ガラスの天井”に挑み、「スター・ウォーズ」の主人公レイがライトセーバーで闇を切り開く2016年の新春に相応(ふさわ)しい佳作である。

 ◇たまおか・かおる=1956年、兵庫県生まれ。87年に作家デビュー。2009年に『お家さん』で織田作之助賞を受賞。

 新潮社 1800円

読売新聞
2016年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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