『中曽根康弘 「大統領的首相」の軌跡』 服部龍二著

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中曽根康弘 : 「大統領的首相」の軌跡

『中曽根康弘 : 「大統領的首相」の軌跡』

著者
服部 龍二 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121023513
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『中曽根康弘 「大統領的首相」の軌跡』 服部龍二著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

リーダーの本質問う

 「歴史を作る最良の方法は、それを書くことだ」。ウィンストン・チャーチルの名言である。それを実践するかのように、中曽根康弘ほど回顧録はじめ多くの記録を残している政治リーダーもいないだろう。

 それだけに中曽根評伝を試みる者には「中曽根史観」に流されない用心が求められる。著者はあらん限りの資料を渉猟、29回も本人にインタビューして公正であろうと努めている。「中曽根政治」を考える最も基本的な文献になるだろう。

 この評伝を通じて著者が明らかにした中曽根政治の本質は、外交に象徴的に示されている。世界大の視野で戦略的、体系的に展開する一方で、首脳間の個人的信頼関係を大切にするなど、「情」と「理」を併せ持っていたことだろう。

 著者は、中曽根が無役になるたびに外国を訪問、国際情勢への理解を深めて、首相になった時に活(い)きたことを強調している。訪米した際には政治家の演説のレコードを大量に持ち帰ったというエピソードも紹介している。「ケネディ・マシーン」にならった「中曽根マシーン」の人脈づくりも含め、すべてが首相への道に通じていたことがわかる。

 時に応じ主張と立場を変える中曽根は「風見鶏」と揶揄(やゆ)された。「今日本で一番必要なのは『風見鶏』だと思う。『風見鶏』は足はちゃんと固定している。からだは自由です。だから風の方向が分かる。風の方向が分からないで船を進めることはできない」。中曽根の弁明であり、信念でもあった。本書を読めばそれもある程度理解できるだろう。

 埋(うも)れ火は  赫(あか)く冴(さ)えたる  ままにして

 97歳で色紙にしたためた自作の俳句である。白寿を目前にして、なお自らの内部に沸々たるものを秘めている。中曽根政治への評価はさまざまあろうが、リーダーに最も必要なものは何かを考えるうえで本書は裨益(ひえき)するところ大だろう。

 ◇はっとり・りゅうじ=1968年、東京都生まれ。中央大教授。専攻は日本政治外交史、東アジア国際政治史。

 中公新書900円

読売新聞
2016年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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