『集合住宅30講』 植田実著

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集合住宅30講

『集合住宅30講』

著者
植田実 [著]
出版社
みすず書房
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784622079248
発売日
2015/11/26
価格
4,536円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『集合住宅30講』 植田実著

[レビュアー] 松山巖(評論家・作家)

人との接し方学ぶ場

 東京など都市部では高層の集合住宅建設は今も盛んだ。それだけに効率の良い施工が求められ、外観も住戸平面もパターン化し、画一的になり易(やす)く、同じ扉一枚を境に隣人と付き合いも希薄になりがちになる。

 ならば、この問題を建築家は無視してきたかといえば、そうではない。本書を読めば、多くの建築家がユニークな方法で集合住宅の難問に挑戦してきたことがわかるだろう。

 著者は日本各地ばかりか世界各地の集合住宅を訪ね歩き、自ら撮ったカラー写真を添え、具体的なデザインと各建築家独自のテーマとを実にわかりやすく考察してゆく。

 例えば建築科の学生なら最初に知る集合住宅はル・コルビュジエが設計したユニテ・ダビタシオンだろう。ピロティで建物を浮かし、大地を公共の場にし、屋上にプール、体育館、幼稚園などを設けた。しかも建物の表裏にバルコニーが並ぶように住戸を配し、外観は花と多彩な色で塗った袖壁とで華やかさを演出した。

 世界は広い。一つの街として住み手にも外来者にも印象付けるため門構えを設けた集合住宅もあれば、庭を外来者に開放し、全体を公園のようにしたものもある。各戸を結ぶ廊下は単調になりがちだが、光と影で印象的な場にしたものも、各住戸に裏口を設け、住み手の使い方をより自由にしたものもある。

 中庭を外部から遮断し、各住戸の個室から出入りさせ、住民相互の交流を高めた集合住宅も、店舗を住棟に入れ、近隣の核としたものもある。更に住民たちを喜ばせる演劇性を加味したもの、オブジェや壁画を印象的に配置したものも、古い集合住宅を修復し保存した例もある。

 改めて考えれば、集合住宅では多くの人が集まって長く暮らすのだから、人はそこで人との接し方を学び、環境から五感を育み、体の表現まで学ぶはずだ。だから各建築家のデザインには十分な根拠がある。

 その上で著者は、集合住宅の更なる展開を望んでいるはずである。

 ◇うえだ・まこと=1935年、東京都生まれ。建築評論家。著書に『真夜中の庭―物語にひそむ建築』など。

 みすず書房 4200円

読売新聞
2016年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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